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【安永聡太郎】“極上”のCL決勝を深掘り解説!「勝負を分けたのはハーフタイムの戦術変更だ」

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年08月31日

アスリート能力の高いフットボーラーが優位になりつつある

バイエルンがパリSGを下したCL決勝はハイレベルな攻防が行なわれた。(C) Getty Images

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 当たり前ですが、どの試合を解説しても、僕は選手をリスペクトしている。なぜなら彼らがいないと仕事として成り立たないから。解説者は選手の恩恵に預かっている。

 僕らが見るのは「フットボール選手がどんなパフォーマンスをしたか」なんだけど、どうしても重箱の隅を楊枝でつつくことをしなければいけないときもある。もちろん良かったシーンも紹介するけど、どちらかといえば悪いシーンに対してどんな問題があったかをほじっていく。

 その時代のサッカーの原理原則とそのチームがそれまでに表現してきた戦略と戦術から外れていることを見つけて話をする。でも、今回のこのチャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝については「何を解説したらいいか?」が見つからない。人間がプレーする上でそれくらいすばらしい試合だった。褒めるのは僕の仕事ではないけど、この試合については「粗探しする」のも解説の仕方としては違う。

 だから、「良いところがなぜ生まれたのか」を紐解くのが、最もこの試合の質の高さが伝わるんじゃないか、と思っている。

 これが試合後の感想だ。この試合を「観客なし」でやってしまったことの罪深さがあって、これは言葉にならないよね。コロナ禍とはいえ、もったいない。もしそんなスタジアムがあるならば20万人が入る場所で試合をしないと。そのくらい両チームとも完成度が高かったし、ハイレベルの選手がそろっていた。

 どこを一つ抜き出しても全員がハイパフォーマンスだった。フットボールって最高だよ。これを見ていたJリーグの選手たちもこの舞台に憧れるだろうし、きっと子どもたちも憧れたはず。一方で、環境の違いはあるけど、Jの選手がプレーしているインテンシティー(プレー強度)やトランジション(攻守の切り替え)がどのレベルのものかと少なからず考えてしまうよね。

 Jリーグも確実にボールプレーは向上しているし、そこだけを見れば「すごくうまくなったな」と思う。戦術的にも「オレらの頃にはなかったよな」と思うことが攻守にあって実践している。だけど、「パリ・サンジェルマン対バイエルン・ミュンヘン」が見せたインテンシティーとトランジションを比べると、非力ではあるけど、Jリーグに対して「こんな自分にできることは?」って悶々と考えたよね。
 
 6月、7月の連載で「メッシ問題」に触れたけど、もう1人でもサボる選手がいたらこの舞台ではきついんじゃないかと感じる。8月にCLベスト8の「バルセロナ×バイエルン・ミュンヘン」の解説で「もしメッシがバイエルンの中に入ったら…」という話もしたけど、この試合のミュラーの活躍を目にしてしまったら「だったらレバンドフスキが100%で守備をしないといけないの?」と想像するけど、現代サッカーのこの舞台での守備において「君はこの大枠の原則さえ守っていればいいよ」って言える選手はチームにせいぜい1人だ。

 バイエルンでは、レバンドフスキ。全員が100%で守備を実行すると攻撃時の槍が残らないから彼は真ん中に残りつつ守備を行ない、ボールを奪った後の第一手になる使命を持つ代わりに守備を少しだけ免除される選手になるんだろうね。

 唯一守備の役割を小さくしてもらうチームのフリーマン。パリSGでいえば、そこに当てはまるのはネイマール。彼はフリーマンとして左サイド寄りに少し低い位置に下がりながら攻撃時の第一手を担っていた。

 バイエルンのコマンとニャブリ、パリSGのエムバペとディ・マリア、両チームのウイングはボールを奪われた後のプレスバックもすごいし、当たり前にチームの守備としての役割を果たしていた。たとえば、ネイマールだって「ピボ(ボランチ)のチアゴ・アルカンタラへのパスコースを消しながらセンターバックにプレスに行く」という約束事がある。

 要は、この段階ではチームとして「直線的なボールを出させない」という原則がある。これはバイエルンのレバンドフスキについても同じ原則がある。守備の役割を小さくしてもらっている選手でさえ、一つも疎かにはできないよね。ここをまざまざと見せつけられた。

 しかし、この状態だとこの舞台でのサッカーの試合がアスリートの集まりじゃないとプレーができなくなってきている。そこで、僕が期待したいのはスペイン勢の奮起なんだよね。走って速い。当たって強い。「この身体能力が人並み以上です」という選手の集まりになっているのは仕方ないし、センターバックやサイドバックなどアスリート能力に長けてたほうが有利なポジションがあるのも否定しない。

 アスリートありきのフットボーラーが重宝される時代に入りつつある。

 時代とともに求められる選手も変わるものだから、今はアスリート能力の高いフットボーラーが重要視される。だけど、僕は「フットボーラーでしかない選手も大事だ」と考えている。身体能力は人並み、あるいは人並み以下の部分もある。でも、そういう選手たちの集合体がこの舞台にいつまた戻ってきてくれるのかなという想像をしてる。

 アスリート部隊の集まりをうまくボールを散らしていなしながら相手の足が徐々に動かなくなっていくような試合を見てみたい。僕自身はそういうタイプの選手じゃなかったけど、フットボールの好みはそっち派。だから、スペインのリーガが好き! 

 余談だけど、ヨーロッパリーグのセビージャの優勝はこの決勝とは全く違う感動を覚えた。そして、世界を見渡してアスリート能力で上回れない日本のJリーグの方向性が見えた気がした。

 去年のCL決勝もプレミア勢の対決で、どちらかといえばアスリート色が強いチーム同士の戦いだった。3年前のマドリーだってアスリート能力に長けている選手がそろったチームだった。そうやって変遷を見ていくと一時はこの方向で進むと思う。ある一定レベルのアスリート能力がない選手はこの舞台には立ちにくくなっているのかなと。
 
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