個か組織かの議論で終わらせられないのが今回の決勝だった
一つ予想以上だったとすると、ミュラーの存在だ。
ゴールシーンはあのスペースへの飛び込みによってパリSGの選手たちはCBのチアゴ・シウバを筆頭に目線と身体の向きの意識を中央のミュラーに集中させられてしまった。次からの対応は空いたスペースを埋めるか、マークを確認するために体を向き直したりしなければいけない状態、状況を作られてしまった。
たらればになるけど、ミュラーに差し込んだニャブリが「もしドリブルしてキミッヒに戻した」としたらゴールは生まれていない。一度中央にボールを刺し込んだからこそ発生した守備のズレや隙間なんだよね。あのわずかな時間の中での攻防を比較すると、守備者(側)の修正よりも攻撃者(側)の仕掛けが勝った。
局面だけで言葉にすれば、ネイマールがチアゴを見ることができなかった、ディ・マリアが背中のキミッヒを消せなかった、チアゴ・シウバがミュラーに食いついてしまった…そういう指摘になるかもしれないけど、僕はそれだけで失点シーンを語ることはできない。
たとえば、マルキーニョスがチアゴをつかみに行かず、「もし中盤3枚が横並びでフタをしたらどうなったのか」という人もいるかもしれない。そうすればスペースは空かなかったから。でも、前半にキミッヒが中盤の位置に入ってくることはほぼなかった。
ゴールシーンはあのスペースへの飛び込みによってパリSGの選手たちはCBのチアゴ・シウバを筆頭に目線と身体の向きの意識を中央のミュラーに集中させられてしまった。次からの対応は空いたスペースを埋めるか、マークを確認するために体を向き直したりしなければいけない状態、状況を作られてしまった。
たらればになるけど、ミュラーに差し込んだニャブリが「もしドリブルしてキミッヒに戻した」としたらゴールは生まれていない。一度中央にボールを刺し込んだからこそ発生した守備のズレや隙間なんだよね。あのわずかな時間の中での攻防を比較すると、守備者(側)の修正よりも攻撃者(側)の仕掛けが勝った。
局面だけで言葉にすれば、ネイマールがチアゴを見ることができなかった、ディ・マリアが背中のキミッヒを消せなかった、チアゴ・シウバがミュラーに食いついてしまった…そういう指摘になるかもしれないけど、僕はそれだけで失点シーンを語ることはできない。
たとえば、マルキーニョスがチアゴをつかみに行かず、「もし中盤3枚が横並びでフタをしたらどうなったのか」という人もいるかもしれない。そうすればスペースは空かなかったから。でも、前半にキミッヒが中盤の位置に入ってくることはほぼなかった。
もちろん前半は基本システムで試合を進めながら「うちに対してどう仕掛けてくるか」を推し量る時間でもあるし、エムバペのカウンターもあるからキミッヒが中央にしぼるはずもないんだけど。ボールだって中央で失えばカウンターのリスクが高いし、相手を動かす意味でも幅を使ってスタミナを奪い取ったほうがいい。
バイエルン側からすると、特にパリSGの前線3枚の足=槍をどれだけ削げるかは前半のテーマだったと思う。彼らのコンディションが整っている前半の攻撃はもう速いの、上手いの、怖いのってすごかった。最後の最後でノイアーが耐えている場面は何度もあったし。最終ラインの選手も何度シュートブロックをしたか。
僕の見方として、前半は「エレーラvsチアゴ」だったのが、後半から「エレーラvsチアゴ&キミッヒ」に変わった。そういう意味でいうと、違いを作り出す選手が1対1の構図だったのに、1対2に変化した。
バイエルンにとっても、そしてパリSGにとってもテンポづくりが1つから2つになったのは大きかった。最初はスペイン人対決だったけど、ペップによりスペイン人っぽい頭脳を注入されたキミッヒが加わってバイエルンが2つの頭脳を持ってから試合が動いた。
ここがバイエルンにとってポジティブで有効な差を生んだと思う。
ここから先は後書きとして読んでほしいんだけど、大ざっぱな言い方をすると、パリSGは前線3枚が輝かないとゴールにはつながらない。どれだけネイマールが相手を集中させられるか。これが大きな影響を及ぼすし、一見ボールを持ち過ぎた感も否めない。だけど、トータルで試合解析すると、彼がボールを持つことによって相手がしびれを切らしたり、「どうせ持つでしょ」というタイミングで突然シンプルにパスを出したりして「違い」を生んでいる。
そこから始まる前線3枚の攻撃は誰も追いつけないから。本当は味方が追い越して攻撃に厚みを持たせることがセオリーなんだろうけど、彼らを越えるには100メ-トルを7秒台くらいで走らないと、という話になる。
二次的攻撃をチーム戦術として引き出しを持っているバイエルンと、特別な個の引き出しによってしか二次的攻撃を生めないパリSG。今回は、組織が勝った結果になったし、リーグ内での戦術的変化の要、不要も最後のわずかな差に表れたのではないかと思う。
しかし、この最後の比較はもう好みの話にしかすぎない。パリSGのあの前線の3枚を戦術的にガチガチにはめ込むのかも違うだろうしね。「遅行になったらこうします」と制限かけるのが正しいかと問われたらそれも違うだろうと思う。
あらためて「フットボールって最高!」と感じる試合だった。
分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすなが・そうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現・静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
バイエルン側からすると、特にパリSGの前線3枚の足=槍をどれだけ削げるかは前半のテーマだったと思う。彼らのコンディションが整っている前半の攻撃はもう速いの、上手いの、怖いのってすごかった。最後の最後でノイアーが耐えている場面は何度もあったし。最終ラインの選手も何度シュートブロックをしたか。
僕の見方として、前半は「エレーラvsチアゴ」だったのが、後半から「エレーラvsチアゴ&キミッヒ」に変わった。そういう意味でいうと、違いを作り出す選手が1対1の構図だったのに、1対2に変化した。
バイエルンにとっても、そしてパリSGにとってもテンポづくりが1つから2つになったのは大きかった。最初はスペイン人対決だったけど、ペップによりスペイン人っぽい頭脳を注入されたキミッヒが加わってバイエルンが2つの頭脳を持ってから試合が動いた。
ここがバイエルンにとってポジティブで有効な差を生んだと思う。
ここから先は後書きとして読んでほしいんだけど、大ざっぱな言い方をすると、パリSGは前線3枚が輝かないとゴールにはつながらない。どれだけネイマールが相手を集中させられるか。これが大きな影響を及ぼすし、一見ボールを持ち過ぎた感も否めない。だけど、トータルで試合解析すると、彼がボールを持つことによって相手がしびれを切らしたり、「どうせ持つでしょ」というタイミングで突然シンプルにパスを出したりして「違い」を生んでいる。
そこから始まる前線3枚の攻撃は誰も追いつけないから。本当は味方が追い越して攻撃に厚みを持たせることがセオリーなんだろうけど、彼らを越えるには100メ-トルを7秒台くらいで走らないと、という話になる。
二次的攻撃をチーム戦術として引き出しを持っているバイエルンと、特別な個の引き出しによってしか二次的攻撃を生めないパリSG。今回は、組織が勝った結果になったし、リーグ内での戦術的変化の要、不要も最後のわずかな差に表れたのではないかと思う。
しかし、この最後の比較はもう好みの話にしかすぎない。パリSGのあの前線の3枚を戦術的にガチガチにはめ込むのかも違うだろうしね。「遅行になったらこうします」と制限かけるのが正しいかと問われたらそれも違うだろうと思う。
あらためて「フットボールって最高!」と感じる試合だった。
分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすなが・そうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現・静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。