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【安永聡太郎】“極上”のCL決勝を深掘り解説!「勝負を分けたのはハーフタイムの戦術変更だ」

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年08月31日

唯一の得点は30秒間をかけて生まれた

中盤ではエレーラ(手前)とチアゴ(奥)の両スペイン人がキーマンとなった。(C) Getty Images

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 冒頭にも伝えたけど、インテンシティーとトランジションが重要視される今のサッカーではアスリート能力は切り離せない要素になっている。これらの要素が色濃く出ている試合の中でみな上手に振る舞えているのは、やはりボールプレーがうまいからだよね。そういう選手たちの集まりの中で「色付け」というか、いわゆる「間」を操っている選手が違いを作っていた。

 パリSGでは、アンデル・エレーラ。
 バイエルンでは、チアゴ。

 この二人が異色だった。僕は両者を中心に試合を分析していた。彼らが気持ちよくプレーする必要はないんだけど、彼らからパスを受けた選手たちがどれだけ気持ちよくプレーできるかはチームにとって大事なポイントなんだよね。

 たとえば、チアゴもエレーラも自分が1つきついプレーをすることで「次の選手が楽になる」ことを繰り返していた。相手に1つ間を詰めさせて自分がプレーする。自分のところで1つ間を置いてパスをさばく。さらに、自分が楽な状態のときにはその時間をそのまま次の選手に渡してあげるんだよね。

 中央が閉ざされているときはサイドに流す。時に長いボールを入れる。ほんのちょっとの短いボールだけど、守備者のズレを生むために近い選手と軽めのパス交換を挟んでみたり。そうやって守備者の身体の向きをズラすだけで、次の味方にちょっとだけプレーの間を作ってあげる。
 
 Jでいうとヤット(遠藤保仁)のようなタイプ。

 もちろん両選手とも守備もがんばるからすごいんだけどね。でも、アスリート能力でいうと、そこまで高くない。ただ2人とも必要ならきちんと戦う。だけど、彼らフットボーラーとしてチームに与えるべきものは自制心の部分。ボールに触れても余計なタッチはしないよね。

 この2枚が「どうゲーム中の小さな間で決して小さくはない支配力を及ぼすか」が試合のカギを握ると見ていた。

 得点シーンはそういう部分を差としてチアゴが表現していた。

 だから、このシーンはきちんと掘り下げて解説しておきたい。あのシーンは、バイエルンのDFジューレが無理にレバンドフスキに刺し込んでミスになったボールを奪い、パリSGが狙い通りにネイマールにボールを刺してディ・マリアに渡すところから巻き戻したい。彼がバイエルンのDFジューレの背中をとろうと股下を狙って入れ替わろうとするんだけど、ジューレはボールに触れた。あのサイズの選手があのスピードの駆け引きを仕掛けながらも、落ち着いてそれをさばいて足に当てさせてアラバが戻り、ボールを奪い返した。

 バイエルンはボールを奪ってから自分たちの起点であるチアゴ・アルカンタラにボールを渡すまでの時間は17秒なんだよね。さらに、そこからゴールが生まれるまでに13秒。90分を通してインテンシティーとトランジションのものすごく高い試合だったけど、唯一の得点は間を上手に使って緩急をつけているのがよくわかる30秒だった。

 パリSGからするとカウンターを仕掛けた直後にボールを奪われたわけだから、守備組織が十分だったわけではない。でも、17秒あれば消しておきたいスペースと選手が少し前の時間帯からいた。あの時間帯の3トップはディ・マリア、ネイマール、右にエムバペだった。

 4-3-3で並びだったんだけど、バイエルンのチアゴをネイマールが見られない場合は基本的に中盤のマルキーニョスが潰しに行っていた。システム的には4-2-3-1の形になり、マルキーニョスが出た穴を残り2枚の中盤が中央に絞って対応していた。

 後半、パリSGは前半うまくやっていた前線の3枚が守備に戻れない時間帯が出てきてた。実は、その少し前の時間帯からバイエルンの右SBのキミッヒが中央に絞って、ボランチの位置でボールを引き出す回数が増えていたんだよ。ゴールにつながったシーンもチアゴからキミッヒにハーフレーンからハーフレーンのパスがスッと通ったところに1つポイントがあった。

 キミッヒはパリSGのダブルボランチ脇にあるスペースでターンし、ニャブリにタイムロスなくボールを渡しているからね。ニャブリもいつもならドリブルで前に進むことが多いけど、中央からボールサイドのスペースに走り込んできたミュラーへのマイナスのクロスを選択した。そして、ミュラーはそのパスをキミッヒにダイレクトで落とし、結果、それがゴールチャンスを生んだ。
 
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