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なぜ、風呂桶だったのか。フロンターレを支えてくれた全ての人の象徴。生み出し続けていきたい、「温かさ」という価値を

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2022年11月19日

銭湯という空間で、どう工夫し、楽しむか

1998年の激励会時、川崎大師周辺商店街の面々。左から2人目が天野、後列中央が星野さん。写真提供:星野義孝

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 世の中の銭湯がもっと利用されるようになってほしい。心の底から天野がそう願っている理由は、実を言えば恩義だけではない。銭湯こそ、地域に密着するフロンターレのようなプロスポーツクラブが目ざすべき世界、スモールワールドだと信じているからだ。

 天野は1971年、東京都新宿区内の四谷若葉という下町で生まれている。自宅から歩いて3秒ほどのはす向かいに、若葉湯という銭湯があった。

 下町の路地に面したその銭湯は、近所の子どもたちの格好の遊び場となっていた。少年時代の天野もしょっちゅう裏口から忍び込んでは、「こらぁ」と怒鳴られ、「風呂で遊ぶんじゃねえ」と追い出されていたものだ。

 当時、四谷若葉の子どもたちの間で流行っていたのが、銭湯の浴場で大人の客にバレないように、ベビースターラーメンを食べるという遊びだった。風呂なので当然、素っ裸にならなければならない。どこにも隠せない状態で、どうやってベビースターラーメンを浴場へ持ち込むか。まずはそこから友だちと競い合う。

 銭湯に入っている大人たちは、近所の顔見知りばかりだ。なかには紋紋を背負った、おっかない人もいた。こっそりベビースターラーメンを持ち込み、袋を開けて、カランのお湯を注ぎ込む。バレないようにしながら少し待ち、まずはスープを飲んでから、ふやけて味のなくなった麺をすするのだ。

 見つかれば、「こらぁ、風呂で遊ぶんじゃねえ」と、どやされる。天野を含めた子どもたちにしてみれば、最大のドキドキを味わえる、最大の遊びにほかならなかった。
 
 石鹸を全身に塗りたくり、タイルの上を滑ってみたり、これも本当はやってはいけないことだと今は思うが、湯船のなかで潜水してみたり、ワクワクしながらスーパーボールを投げてみたり。浴場のなかをあっちへ行ったり、こっちへ戻って来たり、大人の客のすぐそばを跳ね回るカラフルなボールを見ているだけで胸が躍った。

 銭湯という限られた空間で、どう工夫し、どう楽しむか。

 大人になった天野が、フロンターレをプロモーションする突飛な企画の数々を練り、実現に漕ぎ着けていく時も、イメージしてきたのは銭湯だった。

 銭湯と、地域に密着するプロスポーツクラブは同じ器だ。風呂に入る時は、みんな裸になる。同じ地域で暮らす人々が、知らない者同士でも、裸で付き合える場所が町中の銭湯だ。大きな湯船に浸かって一日の疲れを落とす、ストレスを発散できる、ほっとできる、素に戻れる、アットホームなところ。

 スタジアムも同じだ。子どもたちの遊び場であり、人と人とを繋ぐ場であり、憩いの場でもあった銭湯には、天野が目ざしてきた世界が詰まっている。
 
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