【安永聡太郎】歴史的圧勝劇はなぜ起こったか?「ペップの遺産」を進化させたバイエルンと、食いつぶしたバルサの明暗

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年08月19日

バイエルンが披露した完ぺきなバルサ対策

ペップ時代にCBとしての経験を積んだアラバ(27番)。最終ラインで攻守に効いていた。(C) Getty Images

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 バイエルンの良いところは最終ラインを高く設定したときに2列目が吸収されないことだよね。

 バルサも基本はハイラインだけど、ラインアップしたときに2列目が前線に吸収された状態になるからボール保持者にプレスがかからず、後が続かない。バイエルンは2トップのどちらかが下がってくるし、ボール保持者の状態によってラインコントロールを巧みに行なう。彼らはチーム全員が味方とのつながりを考えて立ち位置をとれている。

 ラインアップの部分で後方の2ラインがしっかりと前に上げているし、バイエルンは前線のレバンドフスキとミュラーのどちらかが下りてくるから3ラインの機能性がとても高い。吸収されがちな1ラインでプレスをかけるバルサに対し、バイエルンは3ライン全体でプレスをかけている状態なので、ボールを奪ったあとの攻撃もスピードがあるし、厚みがある。

 バイエルンのカギを握っているのは2CBだけど、特にアラバだ。ボアテングもペップに鍛えられてロングキックが蹴れるようになったけど、アラバがセンターバックに落ち着いたメリットとして攻撃時はセンターバックからのパス出しのレベルが上がったこと、守備時は背後の広範囲のケアが挙げられる。

 リーグ戦でよく見られたのは、彼が左側のフリーレーンへとボールを持ち出して逆サイドのフリーレーンの選手にパスを入れたり、パス一本で逆サイドの背後を突いたりできるようになった。チームとしてその選択肢がダメでも、ボランチに入ったチアゴやキミッヒが隙間でボールを受けて試合を作ることができる。

 相手からすると、選択肢を何から消していいかがわからない。

 たとえば、アラバのパターンを選択肢として消しても、今度は同サイドで左ウイングのペリシッチが内側に入ってきて左SBデイビスが上がるスペースをうまく作り出しているんだよね。大外のサイドレーンをしっかり使っていた。そこを埋めても、またロングパス一本のパスで守備を揺さぶることができるし、バイエルンにはセンターバックにそのキックを体現できる選手がいる。たとえ、そこを潰してもミュラーがするすると隙間に入ってくるから、彼らは選択肢に困らない。

 今のバルサだったら、対戦相手としてそれを実行できる能力があるのならやるべきだと僕は思っている戦術なんだけど、レアル・ソシエダがとった戦い方がある。ボールを右に流して相手を集めておいて左で数的優位を作り、バルサの右サイドを突破する戦術。その方法が上手くいった試合では、バルサの右SBはセルジ・ロベルトだった。

 この試合のバイエルンはバルサを左サイドに寄せておいて彼らの右サイドを攻略する戦術をとっていた。もちろん「左SBデイビスのスピードを生かす」ことも重なったと思うけど、ボールの流れとしてはバイエルンから見て「右→左」で、レアル・ソシエダの戦術と類似していた。

 2点目、4点目はボアテングが持ち出してサイドチェンジをしたことから始まっている。

 ただボアテングのパス自体は通ってはいない。2点目は右SBのセメドにカットされたけど、チームとして左サイドにボールが来る準備ができていて失ったとしてもバルサの右SHセルジ・ロベルトにパスが入ることを前提に守備を行なっていたため、4人で囲って奪い返した。そこからニャブリ、ペリシッチと渡ってゴールが生まれている。4点目もボアテングが同じように持ち出してレバンドフスキへ大きなパスを展開し、彼が競ったこぼれ球から再び攻撃は始まっている。

 明らかに「右で試合を作り出しておいて左のスペースを使う」ことはチームとして狙いをもって実行していた。

 そこにはデイビスというタレントを生かす意図もあった。これは監督の考えだし、それを遂行できる選手がいた。この背景には、ペップが作り上げたベースとなる戦術を選手とフロントも学んで身につけているから。もちろんペップを経験していない選手もいるから、今いる戦力の中で取捨選択して実行可能なものを残して良いものへとつなげた。バイエルンはこの部分が長けているし、すべてメッシを経由しないとサッカーにならないバルサとは大きく違う。
 

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