例えば、第1節の明治学院スカーレット戦も、第9節のTOKYO UNITED Plus戦も、記録上は同じ2-2のスコアだ。しかし2度リードして2度追いつかれた第1節と、2度リードされて2度追いついた第9節では内容は大きく異なる。数字は同じでも、後者の方がチームとしての成長を感じさせるゲームだった。チームが高みを目指して徐々に歩を進めているのは確かだ。
「やるしかない」。今回の取材で、安田キャプテンが何度も口にした言葉だ。
「状況は難しくても、勝ってなくても関東リーグ昇格への可能性は残っているわけで。たしかに負けた試合も引き分けた試合もありますが、その試合を取り戻そうと思っても取り戻せるものではないじゃないですか。だったら次の一戦に向けてのいい準備だったり、やれることをどんどん増やして、残り試合をひとつずつ勝っていく要素を増やしていくことに集中すべきで。全勝するかもしれないですし、どこかの試合で負けるかもしれない。そこは勝負事ですし相手のいることなので、言い切れない部分はあります。でも相手を上回るプレーができるように練習からやってきているわけで、それを積み重ねていくしか、今できることはないですよね」
「諦めない」
『キャプテン翼』以外のマンガの名言を引き合いに出して、その重要さを教えてくれた。
「『諦めたらそこで試合終了』って本当にそう思います。誰かひとりでも諦めたり、違う方向を向いたりしたら、そこまでです。繰り返しになりますが、チームで同じ方向を向いていれば崩れることはない。試合に出るメンバーが固まってきて、結果が思わしくなくてもメンバーは大きく変わらなくて、じゃあ試合に出ていない選手たちはどう思っているか。彼らの心情――試合に出られない悔しい気持ちは、自分にも経験があるからわかっているつもりです。正直、チームから気持ちが離れかけてしまう時もあるかもしれない。でも、試合に出ていないからってその選手がチームの力にならないかというと、そういうものではない。ここで踏ん張って南葛SCのために何ができるか考えてくれれば、それだけで間違いなくチームとしての成長につながりますし、ひとつになれます。チャンスが巡ってきた時のために準備を続けておいてほしい。全員がそういう気持ちでいてほしいです。今必要なのは、試合に出る出ないに関係なく、チーム全員で目の前の試合を本気で真剣に取りに行く姿勢かもしれません。これは応援してくださる方々にも言えることで。見ている方々にはいろいろと言ってもらって構わないんですけど、諦めないで応援してほしいと思います」
「やるしかない」「諦めない」。とてもシンプルな言葉だ。しかし、この言葉を表面だけで捉えると、その本質を見誤ってしまう。言葉はシンプルでも、実行することがいかに難しいことか。その難しさを経験した上で発せられたこの言葉には、幾重もの意味と覚悟が宿っている。本当はもっと言いたいことが胸の内にたくさんあるはずだ。
しかし、プロとしてこの段階で何を言っても、すべて言い訳になってしまうことを、安田晃大という男は知っている。証明できるのは結果だけ。あらゆる気持ちをグッと飲み込んで短い言葉に収斂した時の眼差しには、プロフェッショナル特有の勝負師の鋭さがあった。
(このシリーズ了)
取材・文●伊藤亮
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