「初戦がユーゴスラビアと分かった段階から、この試合にピークが来るように準備した」
だが期待が膨れ上がる分だけオシムへの重圧は増した。
「戦争の足音は近づいていた。セルビア人の記者はセルビア人の選手を、クロアチア人の記者はクロアチアの選手をもっと使えと主張する。政治が絡み、複雑な状況の中で、私は出身地の違う選手たちをひとつにまとめてきたんだ」
サッカー史の中で、両国は好対照な歴史を築いてきた。オシムが解説してくれた。
「ユーゴスラビアは、どの時代にも優れたチームを作って来た。綺麗にサッカーをするという点では、必ず世界でも3本の指に入って来た。あとはポルトガル、ロシア、フランスあたりだろうか。フランスでは、こんな言い方をするよ。芸術家は芸術家だ。つまり芸術家は、綺麗にプレーすることだけを考える。でも最も良質なチームと最高のチームは別だ」
大会3日目、ミラノのサンシーロ・スタジアムでは、最も勝つ伝統を築いてきたチームと、最も美しく戦うチームが顔を合わせた。
ただしより強い危機感を抱いていたのは、勝利のマインドを宿した方だった。
「組み合わせが決まり、初戦がユーゴスラビア戦と分かった段階から、この試合にピークが来るように全力で準備をしてきた」
ギド・ブッフバルトの述懐である。
2年前の欧州選手権で、ブッフバルトは開幕から2試合に出場したが、故障をしてオランダ戦ではプレーが出来なかった。結局終了間際にオランダのマルコ・ファンバステンに逆転ゴールを決められた一戦で、大会後にドイツのメディアは「ブッフバルトがいなかった」ことを敗因に挙げていた。
万全の準備で臨んだ西ドイツは、序盤からゲームを支配した。一方ユーゴスラビアは、理想のスタメンについて、オシムのビジョンとメディアの要求が大きく食い違っていた。オシムは、こう言い切る。
「戦争の足音は近づいていた。セルビア人の記者はセルビア人の選手を、クロアチア人の記者はクロアチアの選手をもっと使えと主張する。政治が絡み、複雑な状況の中で、私は出身地の違う選手たちをひとつにまとめてきたんだ」
サッカー史の中で、両国は好対照な歴史を築いてきた。オシムが解説してくれた。
「ユーゴスラビアは、どの時代にも優れたチームを作って来た。綺麗にサッカーをするという点では、必ず世界でも3本の指に入って来た。あとはポルトガル、ロシア、フランスあたりだろうか。フランスでは、こんな言い方をするよ。芸術家は芸術家だ。つまり芸術家は、綺麗にプレーすることだけを考える。でも最も良質なチームと最高のチームは別だ」
大会3日目、ミラノのサンシーロ・スタジアムでは、最も勝つ伝統を築いてきたチームと、最も美しく戦うチームが顔を合わせた。
ただしより強い危機感を抱いていたのは、勝利のマインドを宿した方だった。
「組み合わせが決まり、初戦がユーゴスラビア戦と分かった段階から、この試合にピークが来るように全力で準備をしてきた」
ギド・ブッフバルトの述懐である。
2年前の欧州選手権で、ブッフバルトは開幕から2試合に出場したが、故障をしてオランダ戦ではプレーが出来なかった。結局終了間際にオランダのマルコ・ファンバステンに逆転ゴールを決められた一戦で、大会後にドイツのメディアは「ブッフバルトがいなかった」ことを敗因に挙げていた。
万全の準備で臨んだ西ドイツは、序盤からゲームを支配した。一方ユーゴスラビアは、理想のスタメンについて、オシムのビジョンとメディアの要求が大きく食い違っていた。オシムは、こう言い切る。
「だから私は敢えて西ドイツ戦で、私のメンバーとは言えない選手たちを送り出した。結果は分かっていたよ」
ただしわずか3試合しかない大事なグループリーグの初戦で、本当にオシムがそんな実験をすることが出来たのか、それは自国の記者数人に意見を求めても、軒並み「ありえない」と否定的だ。