戦略の正しさと選手たちの状態はマッチしていたか
先制点のゲッツェの得点シーン以外、前半の決定機はほとんどなかった。ロイスはしきりに守備陣にボールを持って持ち上がってこいとアピールし続けた。だがビルドアップからのミスが多く、攻撃のスピードをうまく上げられない。
局所的にマンマークにくるシャルケの守備に対しては、素早いパス交換とスペースへの飛び出しを組み合わせて翻弄することが求められていたが、そうした動きもあまり見られなかった。
試合後の会見で、ファーブルは先発に起用した選手たちの意図について「90-95%は4-2-3-1でプレーしている」と説明していたが、むしろこれまでは頻繁にシステムを変えて試合に臨んできていた。
前半は安定感を優先し、得点が必要な時にアルカセルを投入するというのは、非常に論理的なマッチプランだ。悪手なわけがない。だが、それが現在の選手たちの心理状況とマッチしているかは、また別の話だ。
ひとつも負けられないというプレッシャーに加え、ルール・ダービーという異空間の中で普段通りに戦えるだけの成熟差、メンタルの強さを彼らが持ちえていたか。
ここ最近はロイス、ゲッツェ、アルカセルを同時起用する布陣が好プレーにつながっていたからこそ、そして勢いのある若い選手が多いからこそ、積極的に攻撃的な選手を起用し、気持ちを解放させた方が良かったのではないかと考えてしまうのだ。
局所的にマンマークにくるシャルケの守備に対しては、素早いパス交換とスペースへの飛び出しを組み合わせて翻弄することが求められていたが、そうした動きもあまり見られなかった。
試合後の会見で、ファーブルは先発に起用した選手たちの意図について「90-95%は4-2-3-1でプレーしている」と説明していたが、むしろこれまでは頻繁にシステムを変えて試合に臨んできていた。
前半は安定感を優先し、得点が必要な時にアルカセルを投入するというのは、非常に論理的なマッチプランだ。悪手なわけがない。だが、それが現在の選手たちの心理状況とマッチしているかは、また別の話だ。
ひとつも負けられないというプレッシャーに加え、ルール・ダービーという異空間の中で普段通りに戦えるだけの成熟差、メンタルの強さを彼らが持ちえていたか。
ここ最近はロイス、ゲッツェ、アルカセルを同時起用する布陣が好プレーにつながっていたからこそ、そして勢いのある若い選手が多いからこそ、積極的に攻撃的な選手を起用し、気持ちを解放させた方が良かったのではないかと考えてしまうのだ。
もちろん、56分にアルカセルを投入した直後に退場者を出さなければ、全く違う展開になったかもしれない。終盤に逆転勝ちをしていたのかもしれない。どんな布陣で臨んだとしても、一試合で2枚もレッドカードをもらってしまったら、采配の余地がなくなってしまうのは確かなことではある。
ただ、地元記者がファーブルに「PKとなったハンドの判定に対する憤りは理解できるが、それ以外にも敗因はあるのでは? ナーバスになってしまったのか?」と質問した際、ファーブルは、こう答えている。
「レッドカードは今季初めてだ。一人少なくなることに慣れていない。しかも2枚も続けてだ。それでは難しくなってしまう」
神経質そうに答えていたその姿を目にしたとき、このダービーマッチにおいて、誰よりもナーバスになってしまったのはファーブル自身だったのかもしれないと感じた。
優勝争いのさなかに迎えたルール・ダービー。そのヒリヒリする特有の空気感は、経験豊富なはずの指揮官から、平常心を奪い去ってしまったのかもしれない。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。