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日本の首都のど真ん中で、子どもたちが豊かに成長できる「仕組み」【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:特集

手嶋真彦

2022年09月10日

「サッカー×○○」の複合イベントを企画してお膳立て

公式戦初勝利を収めた1期生と後輩の2期生たち。FC千代田の指導者たちは、子どもたちの好奇心を刺激する。

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 今春巣立っていった中3の子どもたちは、卒団の節目にダンスの公演を行なった。公演直前には泊まりがけの合宿を張り、ダンスという身体表現を通して表現する楽しさや喜びを味わい、仲間同士で思いを伝え合い、絆を確かめる。公演当日は駆け付けた保護者に、感謝の気持ちを直接伝える。

「中3の子どもたちが号泣しながら、親御さんに手紙を読んだり、仲間同士でハグしたりする、そんな素敵な時間です。サッカーって88分は、ボールに触らないスポーツじゃないですか。ボールには触ってないけど、誰かのために走ったり、チームのために献身したりしています。この88分の意味って、実はサッカー以外の何かを通したほうが、より伝わるんじゃないかと思います」

 FC千代田はこうした「サッカー×○○」の複合イベントを企画し、お膳立てを整える。フラワーアレンジメントは先生を招き、卒団公演は「TO MY HERO project」というプロ集団の力を借りる。

「FC千代田は、クラブ外のメンタル、食育、フィジカル、表現コーチなど専門家の方々を積極的に頼りながら運営しています。僕らだけでは提供しきれないものを、子どもたちにどんどん注入していきたいです」

 今後の課題は、地域の企業とどう連携していくか。千代田区内に本社を構え、日本全国の図書館で設備やシステムを整える「キハラ株式会社」とは、たとえばFC千代田の子どもたちが未来の図書館や、新しい形の図書館を考え、大人たちとアイデアをシェアするといった構想を温めている。中村はこう願っているようだ。思いを共有できる地域の仲間を増やして、地域で子どもを育てていく、そのひとつのモデルにしていけたらと。

 FC千代田のFCは、実は「フットボールコミュニティ」を略したものだ。代表理事の中村は、「子どもたちの居場所」にできるコミュニティを増やしていくことが、クラブの使命だと受け止めている。

 厚生労働省の資料(令和3年「人口動態統計」)によると、10~14歳の死因は自殺がもっとも多い。文部科学省の資料(令和2年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」)によると、2020年度の小中学生の不登校は過去最多の19万6127人を数え、10年前の11万9891人から大幅に増えている。

「こうした問題の一因となっているのが、家庭のほかには学校しかない子どものコミュニティ不足だと思います」

 そう語る中村は、解決策につながるイメージを持っている。ヒントをくれたのは千代田区立麹町中に勤務していた頃の工藤校長だ。工藤は自身の著書『学校の「当たり前」をやめた。』に、「小さな学校」構想を記している。その書籍から引用する。

「例えば、午前中は、従来型の学校の学びを行い、午後からは民間の力を借りて“課題解決型学習”――中略――の形で学ぶ授業を充実させ(ここまでが教育課程内)、その後の教育課程外の時間については、部活動も含めて――中略――さまざまな講座を開設するという構想です。そこには市民・区民も参加することができるようにします。生徒は多様な大人と共に学ぶことができます」
 
 麹町中の部活動改革に携わらせてもらった中村は、工藤が次のように語っていたのを覚えている。

「学校には校庭も、音楽室もプールも調理室もある。子どもたちの人間関係を多様化できるコミュニティが、学校のなかにいっぱいあれば理想だと。なるほど、その通りだと思いました」

 千代田区内で子どもたちがスポーツを楽しめる場所は限られている。公共の学校施設をより活用できるようになれば、FC千代田も活動の幅を広げていける。

 行政のより大きな理解を得て、公共施設を有効活用しながら、地域で子どもたちを育てられる仕組みを作っていくために、コツコツ勉強するのが苦手だったと打ち明ける中村は、現在大学院に通って公共政策を学んでいる。

「現在のフットボールコミュニティを、まずはこの先10年でスポーツコミュニティにしていくのが僕らのビジョンです。もちろんスポーツだけにこだわる理由は、どこにもありません」
 
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