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日本の首都のど真ん中で、子どもたちが豊かに成長できる「仕組み」【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:特集

手嶋真彦

2022年09月10日

サッカーは豊かな成長の手段。人生を豊かにするのが目的だ

サン・シーロで記念撮影。中村(3)の人生に大きな影響を及ぼす出来事はこの深夜に起きる。(C)Yoshinobu NAKAMURA

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 中村は20代後半のおよそ3年間、サッカーの指導現場から完全に離れている。自分が本当に好きなことはサッカーだけなのか? 視野を広げようとウェブ系のベンチャー企業に就職し、魅力的な多くの人々と出会うことになる。

 中村が魅力を感じる人々は、ある共通点を持っていた。それぞれ工夫を凝らし、知識をアイデアに変えている。中村はハッとした。まだ小学生だった頃、サッカーが上手い子から下手な子まで全員の力を合わせて、どう勝つか、中村は工夫するのが楽しくてたまらなかった。自分で好きなだけ工夫できるのが、サッカーの大きな魅力ではないか……。

 FC千代田は入団前の保護者向け説明会に力を入れている。保護者たちにはこう伝える。

「ここでは大人の知恵を押しつけて、子どもたちに勝利を追求させるような育成はしていません。結果はあとからついてきます」

 それこそ人間力が、FC千代田の指導者には求められると中村は言う。

「子どもたちを信じてあげられる。子どもたちを安心させて、チャレンジさせてあげられる。子どもたちに経験をいっぱい積ませてあげられる。そんな力です」

 人との出会いに、中村は恵まれてきたと言う。中学生年代で出会ったのが、中村が所属していたヴィヴァイオ船橋(千葉県船橋市)でクラブ代表を務める、サッカーを通して人を育てるマインドに溢れた渡辺恭男だ。もともと中学校の教師だった経歴を持つ生粋の教育者である渡辺がグラウンドに立ち、子どもたちを教えるときに見せる心から楽しそうな姿が、中村の脳裏に深く刻まれている。

「人は本当に好きな何かと出会うと、あそこまで心が豊かになる。渡辺先生が持ち続けている情熱に自分も触れさせてもらって、こんなに豊かな人生はないと感じました。サッカーは人生を豊かにしてくれるものなんだと」

 渡辺の出身校でもある市立船橋高に進学した中村は、そこで布啓一郎と出会う。高3の冬に全国選手権を制する代で、最後までAチームに上がれなかった中村は、布の指導を直接受ける多くの機会には恵まれなかった。それでも「ライフ・イズ・チャレンジ」という大切な言葉を贈ってくれた布は、格好いい大人の象徴だった。高校教師からU-16日本代表監督に転身し、Jクラブでも指揮を執るなど、布自身が体現していく「人生は挑戦」の精神は、FC千代田の「チャレンジにワクワクできる、キラキラした子どもたち」という育成像につながっている。
 
「サッカーすると何がいいの?」
「勝ちたいのは子どもたちでしょ。僕らは成長した姿が見たいんだよね」

 そんな言葉の数々で本質思考の力を学ばせてくれたのが、千代田区立麹町中学校で校長を務めていた工藤勇一(現横浜創英中学・高等学校校長)だ。

「テストで良い点を取らせることが学校の目的なのかな。違うよね。学びが楽しいと知ってもらうことだよね」

 前例や常識にとらわれず、次々に教育改革を進めていく工藤に強く触発され、中村はこう断言できるようになる。

「サッカーは豊かな成長のためのツールであって、目的は人生を豊かにしていくことです。サッカーも手段のひとつとして子どもたちを育てていきながら、素敵な時間の輪を広げていきたいです」

 FC千代田は、子どもたちがただサッカーを学ぶ場所ではない。ここでの経験を、自分の人生を切り拓いていく糧(かて)にしてほしい。中村はそう願っている。だからこそ――。

「サッカーを通していろんな体験ができることを、クラブの大きな魅力のひとつにしていかなければなりません」

 クラブが企画するのは、特別な体験につながるイベントだ。母の日が近づけば、FC千代田の子どもたちはフラワーアレンジメントをこしらえ、当日は手紙を添えてお母さんにプレゼントする。

 お母さんが泣いて喜んでくれた。もっと前から感謝の気持ちを伝えておけばよかったと、中村は中1の男子から報告を受けたこともある。
 
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