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日本の首都のど真ん中で、子どもたちが豊かに成長できる「仕組み」【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:特集

手嶋真彦

2022年09月10日

よく聞こえる子どもの声は「やりたい!!」と「できた!!」

夕刻になってもまだ熱気が残っていた6月下旬の取材当日。コンクリートのグラウンドに子どもたちの賑やかな声が響き渡っていた。

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 東京都千代田区というサッカーを楽しめる場所が限られた大都会のなかの大都会で、新しい文化を醸成しようと試みている育成クラブの経営者に話を聞いた。子どもたちが豊かに成長していける、どのような「仕組み」を作っていこうとしているのだろうか――。

――◆――◆――

 東京都心のコンクリートジャングル。大小のビルが林立する一角に、フェンスで囲われたグリーンのそのグラウンドはポツンと現われた。

 最高気温が35度に近づいた6月下旬の午後、日陰ができた小さな片隅で強い日差しを避けながら、サッカーボールと戯(たわむ)れているのは、おそらく未就学の小さな子どもたちだ。続いて低学年とおぼしき小学生たちのクラスも始まった。楽しそうにワイワイ子どもたちがボールを追いかける光景は微笑ましいものであり、だからこそ心の声が漏れてしまう。

「ここが、芝生の上、だったらな」

 FC千代田の代表理事を務める中村圭伸(なかむら・よしのぶ)は、こちらのその声に隣で反応し、深く頷(うなず)いているようだ。視線をグラウンドの足下に落とせば、緑色に舗装されたコンクリートの上だとわかる。グリーンが印象的なこの空間は、統廃合された中学校のかつての校庭だ。

 FC千代田が活動拠点としている東京都千代田区は、皇居をぐるりと取り囲むように東京駅、有楽町、霞が関、永田町、半蔵門、九段下、神田、大手町などが位置する、日本の首都のど真ん中だ。FC千代田が使用できる天然芝のグラウンドは、千代田区内にはひとつもない。人工芝の施設も区営のフットサルコートが1面あるだけで、FC千代田は通常、舗装された小中学校の校庭などを借りている。

 人との縁で2013年からFC千代田のコーチとなり、14年から代表を務める中村が見据えているのは、地域の公共施設を有効活用しながら、地域の人や企業を巻き込み、地域の子どもたちを育てていける仕組み作りであり、ある種の街作りだ。中村はどうやって大都会のコンクリートジャングルから、新しい文化を育んでいこうとしているのだろうか。

 その光景を目の当たりにしたのは2006年8月26日、ミラノのサン・シーロ・スタジアムから宿泊していたホテルへ戻る途中だった。イタリアを指導者研修で訪れていた中村たち日本人コーチの一行は、ナイトゲームのイタリア・スーパーカップを観戦し終えたばかりだった。試合はイタリア代表のフランチェスコ・トッティらを擁するASローマが34分までに3点をリードするも、地元のインテル・ミラノがそこから4点を奪い返す大逆転劇だった。ポルトガル代表のルイス・フィーゴという中村の好きな選手が、延長戦で決勝ゴールを決めていた。

 熱戦の余韻が強すぎたせいか、中村たちは帰りの道に迷う。深夜の路上で右往左往しながら、たまたま出くわしたのが現地のタクシードライバーたちだ。見えてきたのは4~5人の運転手が乗客を待ちながら、サッカーボールを蹴っている光景だった。笑顔でパスを回している。

「これが本場というものか……」
 
 当時22歳の中村は、二重の意味で打ちのめされた。スタジアムでは熱狂的なサポーターたちに圧倒され、街中ではサッカー文化に圧倒されていた。深夜の路上で、いかにも楽しげにパス回しに興じるドライバーたちの姿が、ミラノの街にしっくり溶け込んでいたからだ。

 スポーツが人を豊かにしている街を、日本にも作りたい。そんな志を中村が抱くようになったのは、きっとあの日からだろう。

 FC千代田が育成しているのは、未就学児から中学生までの子どもたちだ。中村は「チャレンジにワクワクできる、キラキラした子どもたち」を育てようとしていると言う。

「ここではチャレンジしないことがミスなんです」

 そう呟く中村の隣で低学年の児童たちの練習を見ていると、子どもたちのハツラツとした声が聞こえてくる。

「オレ、やりたい!」

 賑やかな練習だ。子どもたちのワーワー言う声が、舗装されたコンクリートのグラウンドに響いている。

「よく聞こえてくるのは、やりたい! できた! と言う子どもたちの声です。できることを増やしていく。成長する楽しさを知ることが、ものすごく大事です」
 
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