• トップ
  • ニュース一覧
  • 温泉街をスポーツ合宿の聖地に。“掛け替えのない空間づくり”に邁進する男の物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

温泉街をスポーツ合宿の聖地に。“掛け替えのない空間づくり”に邁進する男の物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2022年06月25日

地域活性化にスポーツを――その牽引車にして立役者にも

32歳で印刷会社から和倉温泉旅館共同組合に転職した吉田。スポーツを地域活性化に活かしている七尾市に、新たな息吹を吹き込んだ立役者のひとりだ。写真提供:株式会社石川スポーツキャンプ

画像を見る

 小さな地方都市をスポーツ合宿の聖地にしたい――。地域の多くの人々を巻き込みながら、託されたその使命に突き進んできた人物に話を聞いた。みんなの笑顔を活力にしながら、掛け替えのない空間づくりに取り組んでいるという。

――◆――◆――

 温泉街がスポーツとタッグを組む――。小さな地方都市のこの一大プロジェクトに深く関わることになる吉田泰は、「大変だから、面白そやな」と誘いに乗った。温泉旅館が集まる観光地に立派なスポーツ施設を建設し、宿泊客の減少に歯止めをかけるという話だった。
 
 前例がどの程度ある取り組みなのか、吉田は自力で調べ、あまりないようだと認識する。それなら挑戦してみるかと腹を括り、勤めていた印刷会社を退職して和倉温泉旅館協同組合の職員となったのが2009年のことだった。

 和倉温泉は日本海に突き出た能登半島にあり、開湯1200年と言われる名湯だ。この名湯を中心とする観光業は石川県七尾市(人口4万9676人)の中核産業だが、吉田が転職する前からカンフル剤を必要とする状態に陥っていた。石川県の統計によると1991年におよそ164万4000人まで増加していた和倉温泉の宿泊者数は、その後減少に転じ、2009年には87万5000人とピーク時から半減していたのだ。

 カンフル剤となるスポーツ合宿の誘致には、経済的な打撃の大きい旅館が中心となり、すでに取り組んでいた。問題はスポーツ施設が不十分だということだった。そこで2009年には和倉温泉の観光協会と旅館共同組合が七尾市に対して施設建設に向けた陳情を行ない、翌年9月にはFIFA(国際サッカー連盟)が公認する最上級の人工芝を使ったサッカーグラウンド3面、フットサルコート2面、クラブハウスなどを備えた公共施設の和倉温泉多目的グラウンドがオープンする。

 官民一体となり、地域の人々が多く関わるこのプロジェクトで、吉田が任されてきたのはスポーツ合宿やスポーツ大会(以下、「スポーツ合宿」と表記)を誘致し、その運営を全面的にサポートする総合窓口だ。2013年には独立した受け皿となる「株式会社石川スポーツキャンプ」を立ち上げ、合宿や大会の申し込みに対応し、宿やグラウンド、弁当の手配はもちろん、マッチメイクまで含めたワンストップのサービスを担っている。

 同じ2013年には和倉温泉街と橋でつながる能登島に人工芝のサッカーコート2面などが完成し、2015年には人工芝24面のテニスコートも近隣に整備されている。スポーツを地域活性化に活かしている七尾市に、新たな息吹を吹き込んだ立役者のひとりが吉田なのだ。 

◇   ◇   ◇
 
 山形県生まれの吉田が石川県民となったのは、小学1年生の終わり頃だ。吉田がサッカー少年だったこともあり、金沢市内に転居した。そこに全日本少年サッカー大会(現JFA全日本U-12サッカー選手権大会)の常連だった強豪少年団が存在していたからだ。以後、首都圏に暮らした大学時代を含め、石川県金沢市が吉田の地元と表現できる土地となる。 

 32歳でそれまで勤めていた印刷会社から和倉温泉旅館共同組合に転職し、4年後には株式会社を立ち上げ自身が代表取締役に。一貫してスポーツ合宿の総合窓口であり続けてきたとはいえ、最初の2~3年は苦しい日々だった。当初は少なくない税金をスポーツ施設に投じる、地域振興策への不安の声も吉田の耳に入ってきた。金沢からやって来た“よそ者”で、自らの使命に“直球”だけで突き進んでいく吉田自身も、地域からの信頼を得ているとは言い難かった。

 スポーツ合宿に対応してくれる旅館も、当初は3軒だけだった。それが4軒になり5軒になりと右肩上がりで増えていくのは、吉田が牽引車となりスポーツ合宿の宿泊客を増やしていくからだ。当時の新聞記事など手元の資料によると、和倉温泉多目的グラウンドの施設利用者は2010年の6644人が、続く2011年には5万2206人に急増する。

 七尾市が2007年にスタートさせていた合宿費用の一部を助成する補助金制度の利用者も、初年度の1780人が5年後の2012年には2万人を超えている。コロナ禍に見舞われる前の2019年は、和倉温泉多目的グラウンドの施設利用者が年間約12万人、宿泊客も約5万人といずれも過去最多の数字を叩き出していた。補助金制度の競技別利用者はサッカーが85パーセント弱と最も多い。
 
【関連記事】
「そんなに良い選手か?」鎌田大地のトッテナム移籍報道に英メディアが見解!「フランクフルトが安価で売りたがるには理由がある」
C・ロナウド、ブガッティ衝突で大破した民家に“全額補償”を申し出。家主が現地紙に明かす「請求書をすべて保管するように言われた」
「クロップの評価は的外れ」南野拓実のモナコ移籍に英紙見解「リバプールが放出を悔やむ可能性はある」
「中国のサッカーを見ると気分が悪くなる」河南MFの危険すぎる“カンフーキック”に衝撃!「完全な暴力だ」
「真剣に遊ぶ」シニアのための“裏選手権”発起人・中村篤次郎が描く夢【日本サッカー・マイノリティリポート】

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 唯一無二の決定版!
    2月15日発売
    2024 J1&J2&J3
    選手名鑑
    60クラブを完全網羅!
    データ満載のNo.1名鑑
    詳細はこちら

  • 週刊サッカーダイジェスト いざW杯予選へ!
    3月8日発売
    元代表戦士、識者らと考える
    日本代表の現在地と未来
    2026年へのポイントは?
    J1&J2全クラブ戦力値チェックも
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 夏の移籍を先取り調査!
    3月21日発売
    大シャッフルの予感
    SUMMER TRANSFER
    夏の移籍丸わかり
    完全攻略本2024
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ