【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の八「適応力」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年03月05日

逆もまた然り。JにはJのテンポ、スタイルがある。

プレミアリーグの激しいコンタクトプレーに順応しつつあった李。日本へ復帰後は、俊敏さや運動量が求められるサッカーへの順応を再び強いられた。(C)Soccer Digest

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 もちろん、国内にいても成長はできる。G大阪の遠藤保仁などは好例だろう。
 
 しかし海を越えて異文化に身を置き、そこで外国人として結果を残す、という経験値は計り知れない。例えば内田はシャルケでチャンピオンズ・リーグに毎年のように出場し、強豪クラブと対戦している。そこでのプレーインテンシティは、国内では体験できない。様々なタイプの選手や戦術と遭遇し、そこで問題を解決するたびに、実力は身につくのだ。
 
 ヨーロッパリーグ・ラウンド16のセカンドレグ、ザルツブルクのルーキーである南野拓実はスペインのビジャレアル戦で先発したが、なにもできずに前半で退いた。攻守ともに強度の高いプレーが続き、南野は明らかに心を挫かれて選択は弱気になり、自慢のコントロールにもミスが出た。どうにか苦境から逃れようと、エースのジョナタン・ソリアーノを探すなどパスコースも読まれていた。
 
 移籍して間もない南野は、フィジカル的問題に増してメンタル的にも戦う準備が不足している。異なる言葉、道徳観、慣習、そしてピッチでのプレーリズムなど、まずは適応が求められる。サッカーは野球と違い、周りの選手とのコンビネーションプレーが基本。“自分流”は通じないのだ。
 
 逆説すれば、JリーグにはJリーグのテンポ、スタイルがある。南アフリカ・ワールドカップで得点王に輝いたディエゴ・フォルランであっても、1年目でおいそれと得点を量産できるわけではない。郷に入れば郷に従え、といったところか。
 
 皮肉にも、海外でキャリアを積んだ日本人選手がJリーグ凱旋後に苦しむのも、ここに理由がある。
 
 例えば浦和の李忠成は、タフなプレミアリーグに合わせた屈強な身体を作った。しかしJリーグではコンタクトする力量よりも、俊敏さや運動量が優先される。後ろから「バチン」とチャージされつつも反転して前に出てシュートを打つケースより、ボールを追い回し、サイドに流れてスペースを作る仕事が多いのだ。
 
 高原直泰、森本貴幸など現地に適応したストライカーほど、Jリーグシフトに戻すのに苦労している。
 
 ともあれ、適応が選手を進化させるのも事実である。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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