【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の六 「臨機応変」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年02月21日

日本で謳われるポゼッションは、すでに形骸化。

サッカーは臨機応変さが求められる。例えば「ポゼッション」という方法論は日本サッカーの教科書となったが、それにとらわれ過ぎるのは危険だ。(C)Getty Images

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「文書化した途端、戦いの剛直さは失われる」
 
 これは兵法における常識である。
 
 歴史に残る兵法家たちは書かれた文章を読み、習得しつつも、あくまで独自の試合感を拠りどころにしている。書かれた理論は整然として非の打ちどころがなく、その当時には最高の計略だったわけだが、時代や状況が違う局面では同じようにはいかない。
 
 なにより文書化されたやり方に囚われてしまうと、発想や行動の瞬発力は減退し、本来的な勝負強さが失われてしまうのだ。
 
 戦いにおいては理路よりも、局面における度胸、独創性、直感が求められることも多々ある。マニュアルどおりに動くだけでは、相手に後れを取ってしまう。テキストやメソッドは参考でしかない。
 
 早い話、サッカーは臨機応変さが求められる。それはマニュアルからは学べず、失敗も含めた経験によってしか培われない。
 
 例えば「ポゼッション」という方法論を、日本サッカーは“教科書化”した。多くの指導者がそれに従い、倣った。その理論自体は正しいが、日本サッカー全体を腰砕けにする危険もある。
 
 たしかにボールを支配し、有利に試合を進めるポゼッションは、戦いの基本と言えるだろう。日本人は体格的に欧米の選手よりも小柄でパワー系の筋力は弱く、“弁慶の力強さよりも牛若丸の華やかさと儚さを好む”気質がある。
 
 その結果、必然的にポゼッションは“大義”となった。バルセロナの画期的な成功も、その流れに拍車をかけることになったと言える。
 
 しかしながら、日本で謳われるポゼッションは理論ばかりがもてはやされ、すでに形骸化しつつある。端的に言えば、ポゼッションへの意識が行き過ぎて、「つなぐためにつなぐポゼッション」となっている。
 
 ゴールという答ではなく、ポゼッションという式に没頭するというのか。その結果、カウンターによる攻撃を最初から度外視することになり、攻め手を自ら封じてしまう。また、つなぐことに執着し過ぎ、単純な空中戦やスライディングタックルなど対人プレーの強度は目に見えて落ちた。
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