【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の八「適応力」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年03月05日

メキシコでプレーした福田の肺は、常人の2倍近くに肥大化した。

豊田が目を丸くしたほどの逞しい太ももを備える内田。その筋力は、ドイツのサッカーに適応した証とも言える。(C)Getty Images

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 適応力。
 
 そう口に出すと、途端に薄っぺらく聞こえる。しかし世界標準で日本人選手について語る時、これほど重要な要素はないだろう。新しい環境、文化の中に飛び込んだ時、どこまで柔軟に対応できるか。異国では常に適応、順応を求められる。
 
 近著『おれは最後に笑う』で描いた福田健二は、パラグアイ、メキシコ、スペイン、ギリシャ、香港と渡り歩いてプロ生活19年目を迎える。メキシコでは、標高2500メートルの高地で練習をしていた。スペイン時代のドクターチェックで胸のレントゲンを撮った時だった。医者が「サンプルにさせてくれ!」と真顔で懇願した。肺が一般人の2倍近くに肥大化していたという。
 
 身体は環境に応じて変化する。一流選手というのは、まず運動競技者として変化に耐えられる肉体に恵まれているものだ。
 
 日本代表のロッカールームでは、図体の大きな豊田陽平が華奢に見える内田篤人の太ももの逞しさに目を丸くしたという。どんな鍛え方をすれば、その太さになるのか。皆目見当がつかず、豊田はその理由を訊いた。
 
「向こうでやってると、こうなっちゃうんだよ」
 
 それは内田らしい答だった。説明はいくらかぞんざいだが、大雑把に言えばまさにそういうことなのだろう。つまり、その筋力はトレーニングジムで身につけられはしない。内田のプレーするドイツのピッチは、重く滑りやすいため足腰で踏ん張らねばならず、また選手同士のコンタクトは圧倒的な激しさがある。環境そのものが、彼の身体を変えたのだ。
 
 もちろん、内田自身が変わったとも言える。
 
 なぜなら、戦える身体はそこにいるだけでは養われない。練習から頭を使いながら仲間の長所を理解し、自分の特長を出し、試合に出場する機会を得て、迫り来る敵をいなし、欺き、脅かし、真剣勝負を勝ち抜く。そのサイクルによって、選手は“変身”を遂げる。とりわけ、レベルの高い試合の経験は実りが多い。緊迫した状況に身を置くことは、短時間であってもなによりの鍛錬になる。
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