【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の四「集団を強固にするマネジメント」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年02月04日

欧州では指導陣全体がひとつのチームとなって集団をリードする

マンチェスター・ユナイテッドで30年近い長期政権を誇ったファーガソン元監督は、自らの眼鏡に適ったコーチングスタッフで地盤を固めた。(C) Getty Images

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 監督に求められる資質とは、統率力と決断力のふたつである。指揮官が支配権を強く握ることで、集団は迷いなく勝負に立ち向かえる。人を束ねられるか。それは集団としての強さに直結する。
 
 例えば、かつてマンチェスター・ユナイテッドを率いたアレックス・ファーガソンは育成年代の指導者まで自分の裁量で決めることで、“独裁的な支配”を成立させていた。時間をかけ、実績を残していくなかで自分の足下を固め、ひとつの王国を作っていった。
 
 王であるファーガソンは絶対で、逆らう者は吊し上げられた。それ故に、チームのサイクルの転換期において何度か窮地に陥っても凌ぎきり、30年近い政権を保つことができたのだ。
 
 しかし、こうした専制的統率がうまくいったケースは他に少ない。
 なぜなら、そのリーダーに周囲が畏怖する強権とカリスマ性がなければ、成り立たないからだ。もちろん、結果も不可欠になる。
 
 ジョゼ・モウリーニョでさえ、レアル・マドリーでは選手やメディアの反発を食らった。ファーガソンほど強烈で柔軟なリーダーシップを持つ監督は珍しい。王国を作るには現場指揮能力だけでなく、フロントをも黙らせるしたたかな政治感覚が必要になるのだ。
 
 そこで、ひとりの監督が命令を下すよりも、「指導陣全体がひとつのチームとなって集団をリードする」というマネジメントの方が、欧州のトップリーグでは一般的になっている。
 
 具体的に言えば、監督は自分の信頼に足るヘッドコーチ、フィジカルコーチ、GKコーチ、戦略スカウトコーチらと連係を組む。そうして自分を支える体制を作ることで、権力を強め、集団を率いることを可能にしている。事実、アルベルト・ザッケローニも、ハビエル・アギーレも、自分のスタッフを入閣させることを日本代表監督の契約条件に入れていた。
 
 そこで、コーチの存在が重要になる。
 コーチはどれだけ優秀な人材であっても、面従腹背では監督は仕事にならない。もしチームがうまくいかなかった時、周りはコーチに話しかけやすいものである。
「なぜ成績が上がらないのか?」「監督の力量に問題があるのでは?」
 
 コーチはその本分を守り、常に監督に寄り添うべき存在だ。にもかかわらず、「あなたが監督だったら、こうなってはないね~」などと甘い言葉を連ねられると、不意に心を動かされてしまう。
<自分がやったら、もっとうまくやれるんではないか>
 
 そうやってコーチが一瞬でも反逆心を抱いたら、統率力は目に見えて落ちる。まさに、指揮系統の喪失、政権の崩壊である。
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