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最後のトヨタカップ、歩けなかったポルト司令塔にMVPを獲らせた日本人の‟神の手”【名勝負の後日談】

カテゴリ:連載・コラム

加部 究

2020年06月14日

「俺に身体を預けるなら治療をするよ」

マニシェと治療を施した久米氏(右)。試合までのわずか2日間で劇的に回復させてピッチに立たせた(写真は久米氏提供)。

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 オレたちが散々手を尽くして来たのに、おまえに何が出来るのかな? チームドクターからのそんな挑発が透けて、久米はカチンと来た。当日ポルトのヴィクトル・フェルナンデス監督は、記者会見に臨み「2人とも出場には意欲的だが、現実的には難しいだろう」と、ほぼ欠場を示唆していた。

 ひとり目はデルレイだった。モウリーニョ指揮下のレイリア時代に21ゴールを決め、監督と一緒にポルトへ移籍。UEFAカップでは得点王と決勝戦のマン・オブ・ザ・マッチを手にしている。皮肉にも来日直前に、そのモウリーニョが率いるチェルシーとCLを戦い、右脇腹を強く蹴られていた。

「骨が突き刺すように痛むんだ」

 結局肋骨が折れていた。だが暫く微弱電流を流すと、最初は猛烈に痛がっていたが「随分楽になった」と笑みが零れる。さらに伸縮テープで固定すると「日本にはこんなものがあるのか」と嬉々として部屋を出て行った。

 問題はふたり目のマニシェだった。ドクターが呟く。
「彼が出るか出ないかで、試合に大きな影響が出る」

 グローインペイン症候群。内転筋や腹部の奥深い部分に痛みを感じ、それをかばうために全身の筋肉が硬直していた。

 ポルトでもポルトガル代表でも、マニシェとコスチーニャはボランチでコンビを組みフル稼働して来た。2年連続して欧州カップ戦で優勝し、EUROでも決勝まで戦い抜いている。知らぬ間に疲労は、たっぷりと蓄積していた。

「オレに身体を預けるなら治療をするよ」

 久米の言葉を受けて、マニシェには選択の余地がなかった。久米は推測する。
「たぶん俎板の上の鯉。歩くこともできない状態だったから、帰国便が少しでも楽になれば、と藁をも掴む思いだったんでしょうね」

 針や灸で筋肉を緩め、全身のマッサージに入る。
「痛いぞ!」
「ウォー!」
 マニシェの悲鳴が何度も響いた。

「欧州では手術をするのがスタンダードでしたが、日本では手術をしないで治す方法を模索していました」(久米)

 しかし30~40分の治療を終えると、マニシェの表情が輝きを取り戻した。「少し動いてみる」と自力で歩き出したかと思うと、今度はその場でジャンプを始める。
「痛くない…」
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