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CL決勝が紡いできた「奇跡」の歴史。逆転のドラマが生まれるには、そこに必ず理由がある

カテゴリ:連載・コラム

吉田治良

2019年05月30日

「奇跡の」と冠が付けられるほど劇的なファイナルは、やはり2試合だけだろう。

シェリンガムが同点弾を上げ、スールシャールが逆転弾を見舞った99年のファイナルは、まさにアンビリーバブルだった。(C)Getty Images

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 ヨーロッパの頂点を懸けた、一発勝負のタイトルマッチ。当然、ホーム&アウェー方式の準決勝まで以上に戦い方は慎重になる。勝つこと以上に負けないことを強く意識するから、派手な試合展開にはなかなかなりにくい。過去26回のファイナルでスコアレスドローはガチガチのイタリア勢対決となった02-03シーズンのミラン対ユベントス戦(PK戦の末にミランが優勝)だけだが、1-0、そして1-1からの延長PK決着は過去に8回ある。
 
 そうしたなかで生まれるCLファイナルでの逆転劇は、だからこそエンターテインメント性という点において希少価値が高い。
 
 上に挙げた6つの逆転劇のうち、1-1からの延長、PK決着は3試合だが、そのうち11-12シーズンのチェルシー、13-14シーズンのマドリーはいずれも終了間際に追いつき、最終的にタイトルを掴み取っている。83分にバイエルンに先制された5分後、この日最初に得たCKをディディエ・ドログバがヘディングで押し込んだ同点弾、アトレティコの堅守に苦しみながら、土壇場の90+3分にこちらもCKから“勝負師”セルヒオ・ラモスが頭で決めた同点弾は、間違いなく鳥肌ものだった。

 ただ、このなかでも「奇跡の」と冠が付けられるほど劇的なファイナルは、やはり2試合だけだろう。98-99シーズンの「カンプ・ノウの奇跡」と04-05シーズンの「イスタンブールの奇跡」だ。
 
 前半で0-3という絶望的な状況から追いつき、GKイェルジ・デュデクの活躍でPK戦も制して頂点に立ったのが、05年のリバプールだ。54分のスティーブン・ジェラードの追撃弾に始まり、56分、60分と立て続けにゴールを奪って一気にゲームを振り出しに戻したその怒涛のラッシュを、敵将であるミランのカルロ・アンチェロッティ監督は「狂気の6分間」と振り返っている。イスタンブールに押し寄せた熱狂的なリバプール・サポーターの地鳴りのような大声援も含め、あれほど観る者の魂を揺さぶったファイナルは他にない。
 
 もっとも、より「アンビリーバブル感」が強いのは、ユナイテッドが制した99年のファイナルかもしれない。なにしろアディショナルタイムのたった3分間で、いずれもデイビッド・ベッカムの左CKから2発を叩き込み、勝利を確信していたバイエルンを奈落の底に突き落としたのだから。恥ずかしながら、あの試合をカンプ・ノウのスタンドで観ていた私は、テディ・シェリンガムの同点ゴールが決まった瞬間からの記憶があまりない。気が付けば殊勲のオレ・グンナー・スールシャールを中心に赤い歓喜の渦が広がっていて、何人ものバイエルンの選手たちが抜け殻のようにピッチに突っ伏していた。
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