「逃げずにサッカーをやろう」
この試合、スタジアムに訪れた観客数は、公式発表で33,700人。ただ、49,000人収容のスタジアムの半分近くが空席のように見えると『Bild』紙に指摘されていた。
どうやら23,000席売れているはずの年間チケットを持つファンの全てが来たわけではなかったようだ。直近ホーム5試合で無得点の5連敗、そして最下位と、内容も結果も乏しいチーム状態だ。試合を観に行こうとしない人もいるだろう。
でも、それを嘆いてもしょうがない。もちろん、満員のスタジアムの方が望ましい。だからといって、この日集まったファンのパワーでは足らないということではない。熱量はあったのだ。本気でチームをサポートする人たちが集まっていたのだから。
どうやら23,000席売れているはずの年間チケットを持つファンの全てが来たわけではなかったようだ。直近ホーム5試合で無得点の5連敗、そして最下位と、内容も結果も乏しいチーム状態だ。試合を観に行こうとしない人もいるだろう。
でも、それを嘆いてもしょうがない。もちろん、満員のスタジアムの方が望ましい。だからといって、この日集まったファンのパワーでは足らないということではない。熱量はあったのだ。本気でチームをサポートする人たちが集まっていたのだから。
ドル監督は試合後の記者会見で、「まだまだ、難しい道だ。まだまだ、やらなければならないことはたくさんある。今はちょっと、重荷が下りたかもしれない。上への道がちょっと見えた。最下位から脱出した」と話していた。ホッとしたことだろう。就任後、早い時期に勝利を挙げられないと、監督交代の効果はどんどんなくなってしまう。
原口元気が「すごくポジティブで、逃げずにサッカーをやろうということを言ってくれる。だから、すごくポジティブにチームとして変わってきていると思うし、それが結果に出たかなと思います」と評価する、ドル監督の佇まい。守備を固めるのではなく、立ち向かっていく姿勢を打ち出す。
それは、この日のスタメンからも見てとれた。2トップに加え、中盤はひし形に。原口は左インサイドハーフの位置で、2得点を記録したミュラーは、トップ下で起用された。おそらく一度もやったことがないかたちだ。守備での連係でズレが出て、危ういシーンを迎えたりもした。
でも、「逃げずにサッカーをやろう」とする監督の思いは、6試合ぶりのホームでのゴールに加え、9試合ぶりとなる勝利というかたちで報われた。「チームに新しい風を吹かせたい」と語っていた原口が、攻守に躍動感溢れるプレーを見せたことも大きい。
そして、次の一歩に向けてドル監督は、選手に要求する。
「どの練習でも、もっと気持ちのこもったプレーが必要だ。それ以外に、ここから這い上がる術はない」
ここが終着点ではない。ここからが、ハノーファーにとっての始まりだ。
文:中野 吉之伴
【著者プロフィール】
なかの・きちのすけ/1977年7月27日生まれ。秋田県出身。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2018-19シーズンからは元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)執筆。オフシーズンには一時帰国して「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。