猛々しくゴールに向かい、前にボールを運ぶ――
この日、南野は機能的なプレーを仕掛けていたとは言えない。無理矢理なドリブルでボールを失い、カウンターを浴びる場面もあった。負けん気が強すぎ、ボールを持ちすぎる嫌いも出ていた。どこかフラストレーションをためているように見えたのは、大会が始まって以来、「決定力不足」の戦犯のようにされたこともあっただろうか。
しかし南野は、誰よりも猛々しく、ゴールに向かい続けていた。前にボールを運ぶ。単純だが、明確な意志があった。
しかし南野は、誰よりも猛々しく、ゴールに向かい続けていた。前にボールを運ぶ。単純だが、明確な意志があった。
その結実が、プレーを止めず、ボールに追いつき、大迫の得点をアシストしたシーンなのだろう。
挑みかかる姿勢は、苛烈なプレッシングにも表われた。2点目のシーンでは、左サイドで相手に対して鋭い出足でプレッシャーをかけ、ボールを鮮やかに奪っている。そして大迫との連係で再び左サイドから仕掛け、折り返したクロスが、エリア内でハンドの判定になった。
また、後半のアディショナルタイムには、ポストワークからたたみかけるような攻撃を生み出している。柴崎岳のくさびを打ち込むようなパスを受けた南野は、フリックで原口元気へ。原口は左サイドを突破し、鮮やかな一撃でイランの息の根を止めた。
サッカーの不文律を守った南野の覇気が、激闘を制したのだ。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。