この夏、勝たなければいけない理由がある。優勝候補筆頭として乗り込んだ昨夏のインターハイでは、初戦で米子北にまさかのPK負けを喫して屈辱を味わった。さらに試練は続き、冬の選手権では群馬県決勝で桐生一にセットプレー一発で沈められた。その１か月後、選手権を逃した悲しみを乗り越えて出場したプレミア参入戦でも、圧倒的に攻めながらも初戦で藤枝東に敗れて涙を吞んだ。全国屈指の戦力を有しながらも勝負所で勝てず、チームとして結果を残せなかった。
 
　それが前橋育英の大きな転機となった。昨シーズンまで徹底的にポゼッションサッカーを貫いたチームだったが、栄光を掴めなかったことでコーチングスタッフ、選手たちの心境に変化が生じた。
「サッカーはパスを20本つなぐゲームではなく、ゴールを競うゲーム。ゴールへ向かうプレーが必要だと強く感じた」（山田監督）
 
　その言葉で、チームから迷いが消えた。インターハイ県予選では、ハイクオリティーなポゼッションと、シンプルなロングフィードを柔軟に組み合わせた「縦」と「横」に幅のあるサッカーで、守備を固める相手を翻弄。中盤でのパスカットを狙う相手にプレスの的を絞らせない戦いで、インターハイのチケットを手に入れた。
 
　昨年の悔しさを知る鈴木主将は「去年、大事な試合に負け続けたことでチームに火がついた。先輩たちのためにも、今年は全国で結果を残して育英のプライドを見せたい。インターハイ出場でやっとスタートラインに立てる」と話す。
 
　インターハイ予選決勝で勝利を収めた前橋育英の選手たちは試合後、部員約170人全員で大きな輪を作り、喜びを共有した。エース渡邉は「去年のチームより選手の技術は劣るかもしれないが、チームワークでは上。前育の誇りと責任を背負って戦いたい」と全国への意気込みを語る。今夏のインターハイを、前橋育英復活の序章にする。

取材・文：伊藤寿学（フリーライター）

【2014南関東総体photo】群馬・前橋育英