【探訪ストーリー】柿谷曜一朗――再出発の地、徳島

カテゴリ:日本代表

塚越 始(サッカーダイジェスト)

2014年05月30日

柿谷の心に響いた「ヒゲの指揮官」のメッセージ。

当時の美濃部監督は、ユーモアと厳しさを交えながら柿谷の心を溶かしていった。(C) SOCCER DIGEST

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「ここでレギュラーを獲れなかったら、次、行くところがない。そういう覚悟を持って来ていたのは伝わってきましたね」
 
 徳島で(昨季まで)最古参だったDF三木隆司は言う。柿谷が徳島にいた2年半の成長を間近で見てきたひとりだ。
 
「その頃の徳島はJ2の下位だったし、来ていたのは他クラブをいわばクビになった危機感のある選手ばかり。そのなかに入ったら、当然肌で感じるものがあったと思う」
 
 徳島の監督だった美濃部直彦(現・長野パルセイロ監督)はまず柿谷にこう伝えた。
 
「なぜ、お前がここに来たのかを、よく考えてほしい。ポテンシャルの高さは認める。だから徳島にプラスを与えられるように働いてほしい。そのために俺は厳しく注文する。決して、特別扱いはしない」
 
 徳島の練習場に初めて立った柿谷のプレーには、出場機会を求める痛々しいぐらいの飢餓感が滲み出ていた。
 
「おー、これは十分戦力になるわあ」
 
 美濃部は唸り、そのエネルギーをぶつけてほしいとチーム合流から3日後の横浜FC戦で、スタメンに抜擢。柿谷はその期待に応えて先制ゴールを決め、徳島も2-0の勝利を収めた。
 
 美濃部が柿谷に与えたポジションは、4-4-2の左サイドハーフだった。2トップには力のある佐藤晃大(現・G大阪)と津田知宏がおり、その頃C大阪でも主にサイドを務めていた柿谷に、ゴールとチャンスメイクの両方の役割を求めたのだ。
 
「良いところと魅力はたくさんあった。ただ、できないこともまだ多かった」と美濃部は振り返るが、「できないこと」の最たる例が攻撃から守備への切り替えを怠るところだった。ボールを追わないため柿谷のサイドでプレスが掛からず、劣勢を招く場面も散見された。
 
「徳島ではひとりでも守備を怠ったら、チームとして成り立たない」
 
 美濃部は柿谷に徹底して素早い切り替えを求め、守備の意識を叩き込んだ。そのプレーがチームのためになるのだ、と何度も繰り返し伝えて擦り込んだ。最初に宣言したとおり、柿谷を特別扱いせず、実際に練習中から集中を欠いたプレーを見せた柿谷を、スタメンから外すこともあった。
 
「普通に実力の問題。年齢的にも若かったから、調子にまだムラがあった」
 
 ただ育成畑出身の指導者である美濃部は、選手との対話を大切にするように心掛けてきた。そんな外国人監督にはなかった選手との距離の近さが、実は人懐っこい柿谷に上手く符合したようだった。
 
「調子の悪い曜一朗は使えんぞ!」
「まだ、俺テッパン(レギュラーが堅い、チームに欠かせぬ存在)ちゃうんすか」
「そや。だから、はよ、テッパンになってくれや」
 
 そんなさり気ない会話のなかでも、美濃部は刺激を与えるように考えていたという。
 
 ただ一度、美濃部が柿谷に激怒したことがある。徳島が勝利を飾った試合直後、ベンチで90分間を過ごした柿谷が歓喜の輪に入ってこようとしなかったのだ。それはC大阪時代にも見られた光景だった。美濃部はそんな不貞腐れた態度を断じて許さなかった。
 
「俺たちは本当の意味で一丸となって戦わなければ勝っていけないチームなんだ。試合に出ていない選手が全力でサポートするのは、プロとして当然の仕事。俺はそういうチームであり続けたいと思っている」
 
 時にユーモアを交え、時に熱く接するヒゲの指揮官のまっすぐなメッセージは、柿谷の心に響き、徐々に変化をもたらしていった。
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