「獲り終えたな」という想いが岩政を移籍へと導く。
11年のナビスコカップ決勝を怪我で棒に振った岩政にとって、12年のナビスコカップ優勝は、個人として三大タイトルすべてを手に入れた瞬間だった。「獲り終えたな」との想いが芽生えた岩政はシーズン終了後、鹿島サイドと13年1月半ばまでというタイムリミットを設けて、移籍の可能性を探った。
中国から破格のオファーが届いたのは、いくつかのクラブとの交渉がまとまらないまま1月半ばを迎え、鹿島に「残ります」と伝えたあとだった。
「迷いましたね。ただ、チームメイトが『出ないでくれ』と言ってくれたし、始動日が迫っていたので、今出て行ったら迷惑をかける。それに、祖父と祖母が体調を崩したり、娘が生まれそうだったり、いろいろ重なって、『今は出るタイミングじゃない』と結論付けたんです」
移籍を模索していた12月、岩政はトニーニョ・セレーゾが戻ってくるという話を聞いた。去就は未確定だったが、運命めいたものを感じなくもなかった。
「セレーゾから始まってセレーゾで終わる……。そんな流れになるかもしれないな、って感じもしました。僕の人生って、そういうところがありますから」
なんとなく感じた運命は、それから約7か月後の川崎戦を境に、現実のものとなっていく……。
――◆――◆――
岩政がサブに回ってからの1か月で、鹿島は3敗を喫した。
それでも岩政がレギュラーに返り咲くことはなかった。コンディションは取り戻していたにもかかわらず。
「その頃ですね、これはもう決めたんだな、と悟ったのは。長年選手をやっていると分かるんですよ、自分を使うつもりがないんだなということが。ただ、だからといって、自分のやることを変えるつもりはなかった。セレーゾに『なぜ、使ってくれないんだ』って聞きに行くことなく、とにかくやり続けようって」
孤独な戦いが始まった。それは監督とではなく、自分自身との戦いだった。
後輩たちにアドバイスを送り、100パーセントの準備で試合を迎える――岩政はこれまでどおりの行動を心がけた。
しかし、内面までこれまでどおりというわけにはいかなかった。
「なんで監督は何も言ってこないのかってイライラしたり、いろんなことが頭の中をめぐって、辛かったですね……」
岩政の代わりにスタメンで起用されたのは、山村和也だった。
山村がミスを犯せば、自分にチャンスがめぐってくるかもしれないが、山村が好パフォーマンスを続ければ、出番が回ってくることはない。一方、自分がサブになったことで昌子源や植田直通はベンチにすら入れなくなったが、もし、昌子や植田が成長を遂げれば、ベンチからも弾かれることになる……。
後輩の成長を心底望んできただけに、初めて味わう葛藤に苦しんだ。
「そんな状況に置かれたことがなかったので、何を願えばいいのか分からなくなるんですよ。このままでは、自分の気持ちが持たないなって……」
その時、岩政は改めて決意する。新しい挑戦のためにも、後輩に場所を空けるためにも、次のオフこそ鹿島を離れなければならない、と。
中国から破格のオファーが届いたのは、いくつかのクラブとの交渉がまとまらないまま1月半ばを迎え、鹿島に「残ります」と伝えたあとだった。
「迷いましたね。ただ、チームメイトが『出ないでくれ』と言ってくれたし、始動日が迫っていたので、今出て行ったら迷惑をかける。それに、祖父と祖母が体調を崩したり、娘が生まれそうだったり、いろいろ重なって、『今は出るタイミングじゃない』と結論付けたんです」
移籍を模索していた12月、岩政はトニーニョ・セレーゾが戻ってくるという話を聞いた。去就は未確定だったが、運命めいたものを感じなくもなかった。
「セレーゾから始まってセレーゾで終わる……。そんな流れになるかもしれないな、って感じもしました。僕の人生って、そういうところがありますから」
なんとなく感じた運命は、それから約7か月後の川崎戦を境に、現実のものとなっていく……。
――◆――◆――
岩政がサブに回ってからの1か月で、鹿島は3敗を喫した。
それでも岩政がレギュラーに返り咲くことはなかった。コンディションは取り戻していたにもかかわらず。
「その頃ですね、これはもう決めたんだな、と悟ったのは。長年選手をやっていると分かるんですよ、自分を使うつもりがないんだなということが。ただ、だからといって、自分のやることを変えるつもりはなかった。セレーゾに『なぜ、使ってくれないんだ』って聞きに行くことなく、とにかくやり続けようって」
孤独な戦いが始まった。それは監督とではなく、自分自身との戦いだった。
後輩たちにアドバイスを送り、100パーセントの準備で試合を迎える――岩政はこれまでどおりの行動を心がけた。
しかし、内面までこれまでどおりというわけにはいかなかった。
「なんで監督は何も言ってこないのかってイライラしたり、いろんなことが頭の中をめぐって、辛かったですね……」
岩政の代わりにスタメンで起用されたのは、山村和也だった。
山村がミスを犯せば、自分にチャンスがめぐってくるかもしれないが、山村が好パフォーマンスを続ければ、出番が回ってくることはない。一方、自分がサブになったことで昌子源や植田直通はベンチにすら入れなくなったが、もし、昌子や植田が成長を遂げれば、ベンチからも弾かれることになる……。
後輩の成長を心底望んできただけに、初めて味わう葛藤に苦しんだ。
「そんな状況に置かれたことがなかったので、何を願えばいいのか分からなくなるんですよ。このままでは、自分の気持ちが持たないなって……」
その時、岩政は改めて決意する。新しい挑戦のためにも、後輩に場所を空けるためにも、次のオフこそ鹿島を離れなければならない、と。