[東日本大震災から6年]元J1監督・清水秀彦が避難所の校庭で見た「サッカーの底力」

カテゴリ:特集

塚越 始(サッカーダイジェスト)

2017年03月10日

1日2個のおにぎりを求めて訪れた小学校の校庭で――。

震災後は様々なチャリティマッチが開催された。3月の大阪での試合で競り合う本田圭佑(18番)と中村憲剛。写真:ゲッティイメージ

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 町は機能を停止し、人づての情報をもとに、ひとり2個ずつおにぎりを配給しているという近くの小学校に向かった。余震は続いていた。街全体が号泣しているかのように景観は変貌を遂げ、港の空の黒煙は範囲を広げていた。
 
 その光景がすべて現実なのだと受け入れようとすると、恐怖に立ちすくんだ。
 
 次に優先すべきは、スクールの子ども達や家族の無事を確認することだ。ようやく不安定ではあるが電話がつながり出して、震災のためサッカー中継が中止になったと分かったが、そのことはもはや二の次で良かった。スタッフや知人を通じて、手分けをして一人ひとり、家族を含めて連絡が取れるか確認していった。
 
 震災から3日目、清水は再び2個のおにぎりを貰うため、小学校を訪れた。校庭には避難してきた人たちの車が停められ、炊き出しの準備も進められていた。
 
 そこで、清水は校庭の片隅の光景に目を奪われた。
 
 数人の子どもたちが、校舎のどこかからサッカーボールを見つけ出してきた。避難所生活で溜め込んだエネルギーを発散する場を求めていた彼らは、校庭の一角の狭いスペースで、無邪気にボールを蹴り出したのだ。
 
 やがて、ひとり、ふたりと加わり、その輪は広がっていく。
 
「ははは、けっこう、上手いな」
 
 そう微笑む清水の周りでも、父母、お爺さん、お婆さんが子どもたちのボールを追い掛ける姿に目を細めていた。ドリブルをしていたちっちゃな子がすっ転ぶと、その観衆からどっと笑いが起きた。
 
 子どもたちの弾けた無邪気な歓声が、束の間、避難所に張りつめていた重たい空気を弛緩させた。誰もが久々に見せた笑顔。その中心にあったのが、ひとつのサッカーボールだった。
 
 清水は、心のなかで呟いた。
 
「サッカーって、やっぱりいいな」
 
 サッカーが復興のために重要な役割を担うとか、そんな壮大なことまでは思わない。しかし、こうしてボールを追いかけている間、なにもかもを忘れて夢中になれる。見ている人にとっても、一服の清涼剤ぐらいになる。サッカーの魅力。それって、純粋に素晴らしいじゃないか。
 
 サッカーの底力に触れた清水は、ひとつ決意をする。
 
 こうした子どもたちに、思い切りボールを蹴って、思い切りグラウンドを走ってもらいたい。そうだ、サッカー大会を開こう、と。
 
 郵便局の避難所に身を寄せていた清水は震災から4日目、道路に置きっぱなしにしていた車を拾い、仙台市内のマンションに戻った。まだライフラインは戻っていない。お世話になってきた近所の人たちに相談し、貴重なガソリンを少しずつ分けてもらい、5日目に実家のある埼玉に向かった。その道程でも大渋滞にはまるなど様々な困難にも遭遇した。
 
 埼玉に戻った後、震災の被害や被災地の状況を把握。仕事の関係先と調整して態勢を整えたあと、再び仙台に向かった。
 
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