【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の三十「スカウティング・フィルター」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年08月06日

どのようなプレースタイルを志向するかで、選ぶ選手は大きく違ってくる。

北朝鮮戦で得意のワンタッチゴールを決めた武藤。Jリーグで結果を残し、殻を破りそうな雰囲気を漂わせていた選手が東アジアカップを経験することは、少なくともポジティブと言えるが……。写真:SOCCER DIGEST

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 中国の武漢で開催されている東アジアカップ。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、開幕戦を北朝鮮と戦って逆転負けを喫している。
 
「日本サッカーの危機だ!」
 
 試合翌日、ハリルホジッチはそう訴えたという。代表にふさわしい選手が育っていない、という真っ当な焦燥感と言えるが、“敗軍の将は兵を語らず”とまで言わずとも、これでは責任転嫁にも受け取れてしまう。代表チームの勝敗の責任は、すべて代表監督に帰する。それが彼らの仕事の重さであり、そうした類の言い訳は許されないはずだ。
 
 そもそも指揮官は、勝利するための準備を正しくしていたのか。それを検証する必要があるだろう。
 
「得点を取れる選手を探す」
 
 そう語って大会に挑んだハリルホジッチの収穫は、浦和レッズの躍進を支える武藤雄樹の存在かもしれない。
 
 北朝鮮戦、武藤は鋭くゴール前のポイントに走り込み、ワンタッチゴールを決めた。彼は昨季からベガルタ仙台で結果を残し、ゴールに向かう時の果断さは刮目に値する。ドリブルひとつとっても迷わず切り込む怖さがあり、殻を破る雰囲気を濃厚に漂わせていた。その武藤が代表選手として東アジアカップのような舞台を経験することは、ポジティブと言えるだろう。
 
 一方で、今回代表に選ばれた選手よりもJリーグでコンスタントに得点を重ねているFWたちが選出されていない。大久保嘉人、豊田陽平、佐藤寿人らリーグ得点王を毎年のように争っているストライカーたちは、「ベテラン」という理由だけで選出から漏れたのだろうか?
 
「世代交代が必要。積極的な若手登用を」という意見は正論に聞こえる。しかしプロの世界において、“与えられたポジション”では成長や進化を促すことはできない。その結果、抜擢されたアタッカーは、経験不足やムラの多さ、戦術・技術精度の低さといった印象ばかりが残った。
 
 おそらくスカウティングにおいて、ハリルホジッチには“誤算”があったのだろう。
 
 誰が良い選手なのかは、実は指導者やスカウトによって異なる。例えばボランチの選手を判断する時、ピッチを動き回ってチームにリズムを与える駆動力のある選手を評価する人と、「動き回ることでポジションを失い、守備のリスクを上げ、攻撃の効果を減退させる」という意見の人がいる。
 
 どのようなプレースタイルを志向するかで、選ぶ選手は大きく違ってくる。それは優劣と言うよりも、戦術的適性と言える。
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