【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の二十八「自由のギャンブル性」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年07月23日

安定の上にこそ、自由で独創的な攻撃が成り立っている。

守備の綻びを嫌い、試合中も細かに修正を施すハリルホジッチ監督。性格的に好戦的な一方、慎重で用心深く、ブラジル大会でのアルジェリア代表は彼のカラーが投影されていた。写真:SOCCER DIGEST

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 勝負に臨んでは、まず守りを堅牢にする。
 
 大半の監督がこの発想から逃れられないし、むしろその点の整備こそが、仕事の手始めになるだろう。守りの堅牢さ、それはプレー全体の安定にもつながる。ポジショニングやカバーリングなど決して警戒を怠らず、相手の動きに対する反射能力を鋭くし、いつでも迎撃できるような態勢を取れるか。その安定の上にこそ、自由で独創的な攻撃が成り立っている。
 
 ジョゼ・モウリーニョやディエゴ・シメオネらは、その堅牢さを拵える名人と言える。レアル・マドリーの新監督、ラファエル・ベニテスがいち早く手をつけたのも、最終ラインのコントロールだった。もっとも、各国リーグのクラブの監督のほとんどが、守りを堅固にする仕事に真っ先に取り組む。下位のクラブで選手のクオリティが劣る場合、この作業を怠れば命取りになりかねない。
 
 Jリーグでは、松本の反町康治監督が限られた戦力でソリッドなディフェンスを作るスペシャリストと言える。まずは選手全員の走力を最大限に高め、動きの練度を上げ、敵味方で構成されるピッチの力学を鋭敏に計算し、「負けにくいチーム」に仕立てる。個人を集団としてひとつにすることでリスクヘッジをしており、セットプレーなど限られた方策で得点を狙い、勝機をコツコツと広げるのだ。
 
 ヴァイッド・ハリルホジッチもこの点、オーソドックスな戦術家の枠を出ない。守備の綻びが出るのをひどく嫌う指揮官は、試合中でも見逃さずに修正を施す。ハリルホジッチは性格的に好戦的な一面はあるが、半面、慎重で用心深い。ブラジル・ワールドカップで率いたアルジェリアはまさに指揮官のキャラクターを投影していた。
 
 一方、リスクを承知で独創的な戦い方を信奉する指揮官もいる。バイエルン・ミュンヘンのジョゼップ・グアルディオラはその典型だろう。彼はいわゆる天才的采配者で、自分のチームが常にボールを持つことを念頭に、いくつものゴールの形をチームに授け、生み出させる、魔術師的な指揮官だ。他には、ラージョ・バジェカーノのパコ・ヘメスも、そのタイプだろうか。
 
 そして前日本代表監督のアルベルト・ザッケローニも、実はこのグループに属する。
 
 ザッケローニ監督は、手持ちの選手で堅牢さを拵えるよりも、「ボールポゼッション率を高め、高い位置で攻撃する時間を増やす」という自身の理念に沿った選手を選考し、理想を追求していた。その戦い方は、アジアカップやワールドカップ・アジア予選など同等か格下の相手には功を奏している。また、強豪を相手にした時も、コンフェデレーションズ・カップのイタリア戦で打ち合ったように、スペクタクルなゲームにはなった。
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