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【安永聡太郎】久保建英はなぜ中断明けから“王様”になれたのか?「中田英寿以来かもしれない」

カテゴリ:連載・コラム

木之下潤

2020年08月05日

中断明けのマジョルカは「久保シフト」が機能していた

チームは2部に降格したものの、久保は評価を上げた。来シーズンはどこでプレーするのか。(C) Getty Images

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 2つ目のプレービジョンはチームとの関係性でもある。

 たとえば、中断明けのレバンテ戦はよかった。この試合はトップにアンテ・ブディミル、トップ下にダニ・ロドリゲス、左SHにクチョ・エルナンデス、右SHに久保が入る形で、ダブルボランチの一角にベテランのサルバ・セビージャ、そして右SBにアレハンドロ・ポソが構えていた。

 実は、久保はポソが後方に位置するようになって調子を上げた。彼は久保を助けるランニングをかなり行なっていて、外側にも内側にも走る。また、ボールを預け、リターンパスで戻す回数も多い。ポソからボールをもらうことで、久保が徐々に自らの間合いやリズムをつかんでいったのは間違いない。

 この試合、マジョルカのビルドアップ時に行ったチーム全体の動きのローテーションは見事だった。

 基本、右ボランチのババが2CBの脇まで下り、ピッチ中央にサルバ・セビージャがスライドする。それを見ながら右SBのポソは、久保が内か外かを確認してバランスよくズレた立ち位置をとる。そういった選手たちによる中外の出し入れがありつつ、前線でもダニ・ロドリゲスはクチョの後ろに位置し、クチョは少し内側に寄ってブディミルの近くにいた。そして、左SBのフラン・ガメスが左サイドで幅をとっていた。

 マジョルカはレバンテの「4-4-2」に対してチーム全体でローテーションしながら動くことで守備の陣形をズラしていた。ダニ・ロドリゲスの何度も前線に駆け上がれる力強さ、クチョのゴリゴリした仕掛け、そして久保の創造性を演出するためにポソが槍のようにどんどん前に仕掛ける攻撃のバランスはすばらしかった。
 
 たとえば左のクチョはサイドチェンジを意識しているなど、チーム全体が右の久保を見ながら動く、「久保シフト」に近い形になっている。具体的にいうと、次の2つがポイントになっていた。

・どうボールを預けるか
・どのエリアに預けるか

 レバンテ戦のマジョルカの1点目も、ポソが大外でボールを受けてサイドバックをつり出し、センターバックがカバーに入る状況を作っていた。もしCBとSBの間を走る久保にダイレクトでボールを返せば、彼はハーフスペースでセンターバックと1対1になり、左足でクッと内側にボールを引っかけたらシュートまで持って行けるような状況だった。

 このシーンは、ポソがファーサイドに浮き球のクロスを選択し、ダニ・ロドリゲスの背後から入ってきたクチョがヘディンシュートによってゴールを決めた。

 このシーンを含めてマジョルカはチームとしてバランスがいい攻撃をしていた。たとえば、マジョルカの戦術の中心にいた久保は、バルサのようにメッシが呼んだら絶対にボールを預けなければいけないわけではない。マジョルカはチーム戦術の中で「久保を最大限に生かすこと」を目的にしているけど、“戦術・久保”という状態にまではしていない。

 何でもかんでも久保にボールを預ける戦術になると、チームのバランスが悪くなってしまうから。マジョルカはチーム戦術の一つの選択肢として「久保シフト」を用意していた。選手に対して監督が間違いなく「久保を見ろ」と言っているだろうし、その環境を作らせているのは本当にすごいと思う。

 僕もスペインのプレー経験があるから久保の置かれた状況が少し理解できる。当時の監督はファンデ・ラモス。プレシーズンで4得点・4アシストを記録したんだけど、シーズン初めに「オレをどう生かすか」で戦術を組んだ。

 日本人なんて認められていないから、もう明らかにチームは不審の目を向けていた。

 フリーキックのトリックプレーのフィニッシュはすべてオレだったんだけど、練習でもことごとく入らないのよ。失敗するたびにチームの雰囲気がえげつないほど悪くなる(苦笑)。久保はそれ以上にレベルの高いプリメーラの残留争いの中でいろんなプレッシャーを受けてプレーした。

 もちろん小さい頃からバルサというビッグクラブでカテゴリーの昇格を勝ち得て現在の地位があるわけだから、僕らが想像できないような経験を積み重ねてきている。この世界で食べていくためにわかりやすい結果が必要なことをわかっているし、実際のプレーで体現できている。

 何よりも「心の成長」は本当にすばらしいし、チーム戦術の中に「久保の利用の仕方」としてローテーションを作らせ、ピッチ上の王様になった現実が今シーズンのすごさを証明している。

 だからこそ来シーズン、久保がどこでプレーするのかが楽しみだ。 

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材はシーズン中の7月11日に行なっています。

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。
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