衰えた39歳を戦力としてどこまで計算するべきか?

トッティに代わって先発したパレルモ戦で2ゴールを挙げたゼコ(右)は本格派のCFで、冬に獲得したペロッティもトッティと同じく「偽の9番」として機能する。39歳の背番号10を彼らより優先するのは難しいが……。(C)Getty Images
2月22日には、アメリカのボストンに本拠を置いているオーナーのジェームズ・パロッタ会長が、ローマで発行されているスポーツ紙『コリエレ・デッロ・スポルト』の独占インタビューを受けて、次のようにコメントしている。
「クラブは全面的にスパレッティを支持しているか? 言うまでもなくその通りだ。スパレッティがトッティへのリスペクトを欠いているという事実はまったくない。それは彼を陥れようとする物言いだ。トッティは選手としてでも役員としてでも、クラブに残ることができる。私は昨年12月にローマで話をした時に、どうしたいか聞かせてくれと言ったが、今のところ返事をもらっていない。近々ローマに行って彼と改めて話をするつもりだ。その時に何らかの決断を聞かせてくれると期待している。これ以上言えることは何もない」
ここまで見てきた事実関係に基づく経緯からは、少なくとも以下の点が明らかだ。
・トッティは自分を起用しない監督に対する不満を公の場で述べるというルール違反を犯した。
・スパレッティ監督はチームの規律に従って、トッティをパレルモ戦の招集メンバーから外すという判断を下した。
・クラブはトップである会長も含めてスパレッティの判断を全面的に支持している。
こうして並べて見ただけでも、トッティが分の悪い立場にあるのは明らかだ。とはいえ彼はローマにとって文字通りのレジェンドであり、それゆえ「並の選手と同じ扱いを受けるべきではない」という考え方も当然ながらありえる。トッティ自身がそう思っているのもまた事実だ。
しかし問題の核心はむしろ、現在のローマというチームにおいてトッティが戦力としてどこまで貢献できるのかという点にこそある。客観的に見ても、39歳を迎えたトッティのパフォーマンスに衰えが目立っているのは明らかだ。とりわけ体力面でそれが顕著で、90分間を走り切るのは不可能だ。
それでも、スパレッティが言う通りクオリティーという面でチームに貢献できる部分は小さくないだろう。いまもこの背番号10の創造性と技術は一級品だ。しかし、現在のローマにおいて、トッティのスタメン起用がはたしてチームの勝利にとって最善の選択か、と考えると、そう言い切るのは簡単ではないだろう。
監督として結果を残すのを唯一の目的としてメンバーを選び、戦術を決める立場にあるスパレッティにとって、明らかに衰えが隠せなくなっているトッティを頻繁にピッチに送り出す必然性が、どこまであるのか。
それがチームの勝利にとって最善の選択ではないとわかっていてもなお、時には過去の実績と貢献を「リスペクト」してピッチに送り出すべきだと考えるか、それともそれは間違いだと考えて「チームの勝利」を優先するか。この問題を巡る立場の違いは、結局のところその一点に収斂する――。
少し言いすぎかもしれないが、私はそう思っている。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
片野道郎/1962年生まれ、仙台市出身。95年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させる。『ワールドサッカーダイジェスト』では、現役監督のロベルト・ロッシ氏とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博している。
「クラブは全面的にスパレッティを支持しているか? 言うまでもなくその通りだ。スパレッティがトッティへのリスペクトを欠いているという事実はまったくない。それは彼を陥れようとする物言いだ。トッティは選手としてでも役員としてでも、クラブに残ることができる。私は昨年12月にローマで話をした時に、どうしたいか聞かせてくれと言ったが、今のところ返事をもらっていない。近々ローマに行って彼と改めて話をするつもりだ。その時に何らかの決断を聞かせてくれると期待している。これ以上言えることは何もない」
ここまで見てきた事実関係に基づく経緯からは、少なくとも以下の点が明らかだ。
・トッティは自分を起用しない監督に対する不満を公の場で述べるというルール違反を犯した。
・スパレッティ監督はチームの規律に従って、トッティをパレルモ戦の招集メンバーから外すという判断を下した。
・クラブはトップである会長も含めてスパレッティの判断を全面的に支持している。
こうして並べて見ただけでも、トッティが分の悪い立場にあるのは明らかだ。とはいえ彼はローマにとって文字通りのレジェンドであり、それゆえ「並の選手と同じ扱いを受けるべきではない」という考え方も当然ながらありえる。トッティ自身がそう思っているのもまた事実だ。
しかし問題の核心はむしろ、現在のローマというチームにおいてトッティが戦力としてどこまで貢献できるのかという点にこそある。客観的に見ても、39歳を迎えたトッティのパフォーマンスに衰えが目立っているのは明らかだ。とりわけ体力面でそれが顕著で、90分間を走り切るのは不可能だ。
それでも、スパレッティが言う通りクオリティーという面でチームに貢献できる部分は小さくないだろう。いまもこの背番号10の創造性と技術は一級品だ。しかし、現在のローマにおいて、トッティのスタメン起用がはたしてチームの勝利にとって最善の選択か、と考えると、そう言い切るのは簡単ではないだろう。
監督として結果を残すのを唯一の目的としてメンバーを選び、戦術を決める立場にあるスパレッティにとって、明らかに衰えが隠せなくなっているトッティを頻繁にピッチに送り出す必然性が、どこまであるのか。
それがチームの勝利にとって最善の選択ではないとわかっていてもなお、時には過去の実績と貢献を「リスペクト」してピッチに送り出すべきだと考えるか、それともそれは間違いだと考えて「チームの勝利」を優先するか。この問題を巡る立場の違いは、結局のところその一点に収斂する――。
少し言いすぎかもしれないが、私はそう思っている。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
片野道郎/1962年生まれ、仙台市出身。95年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させる。『ワールドサッカーダイジェスト』では、現役監督のロベルト・ロッシ氏とのコラボによる戦術解説や選手分析が好評を博している。