ふと甦ったブラジルの記憶。あの草サッカーに似ていると
目の前の1対1にひたすら没頭できる、あくまでも勝利が目標で、そのためのプロセスは自由奔放なブラジルのサッカーが吉田の肌に合っていたのだろう。練習中は喧嘩腰でも、終われば嘘のようにフレンドリーに変貌するブラジルの同年代と、しのぎを削るのが楽しくなっていた。
その一方で、ブラジルでは絶対に通用しないという自己分析もできていた。本気でプロを目ざしているパルメイラスの若者たちは、スピードだったり、高さだったり、展開力やドリブルやクロスだったり、これだけは絶対に譲れないと自負できる特長をそれぞれ持っていた。
レパートリーの多さやオールマイティさのほうが評価されやすい日本の育成環境を中学以降の部活動で知っていた吉田は、次のように悟っていた。すべてが平均点以上でも、個性に乏しく、型にはまった選手が生き抜ける世界では到底ない。ブラジルでは「なんでもできる」は「なにもできない」に等しかった。
王国と呼ばれるだけのことはあり、ブラジルではサッカーボールの転がるところに人が集まってくる。吉田を含めた日本からの留学生たちは練習以外の時間を持てあまし、下宿の近くにある大きめの公園やコンクリートの空き地で毎日のようにボールを蹴っていた。5~6人で遊んでいると、自分も混ぜてくれと現地の人たちが吸い寄せられてくる。
普通に上手いオジサンがいくらでもいて、華麗なヒールリフトや股抜きを成功させてはドヤ顔を見せつけてくる。和気あいあいと技の見せ合いをしているうちに、熱を帯びた勝負になっていたこともある。時間帯によっては近所の子どもたちも混じっていて、それはそれで大切な楽しい思い出だ。
広場で繰り広げられる自由参加のサッカーが、高校生の吉田には心地良かった。ボールと空間さえあればいろんな人が集まり、飽きるまでその遊びが続くのだ。
石川県内でフットサルコートの運営に携わるようになった吉田は、最初は少し不思議だった。日中はいろんな業種の仕事をしている人たちが、夜になるとスポーツウェアに着替えてひとつのボールを蹴っている。心のなかでこう呟いたこともある。この人たちが、ここにボールを蹴りに来るのは、なんでやろ。汗をかくだけなら、ジムでもいいのに。
ふと甦ってきた記憶が、ブラジルの広場でのあの草サッカーだ。
「そういえば、お互いにポルトガル語も日本語もぜんぜん喋れないのに、みんな仲間みたいになって、肩を組んで一緒に歌を歌ったりしてたよな、って。見知らぬ人たちが集まって、ひとつのボールを介して仲間になれる個サルは、ブラジルのあの光景に似ているんです」
◇ ◇ ◇
その一方で、ブラジルでは絶対に通用しないという自己分析もできていた。本気でプロを目ざしているパルメイラスの若者たちは、スピードだったり、高さだったり、展開力やドリブルやクロスだったり、これだけは絶対に譲れないと自負できる特長をそれぞれ持っていた。
レパートリーの多さやオールマイティさのほうが評価されやすい日本の育成環境を中学以降の部活動で知っていた吉田は、次のように悟っていた。すべてが平均点以上でも、個性に乏しく、型にはまった選手が生き抜ける世界では到底ない。ブラジルでは「なんでもできる」は「なにもできない」に等しかった。
王国と呼ばれるだけのことはあり、ブラジルではサッカーボールの転がるところに人が集まってくる。吉田を含めた日本からの留学生たちは練習以外の時間を持てあまし、下宿の近くにある大きめの公園やコンクリートの空き地で毎日のようにボールを蹴っていた。5~6人で遊んでいると、自分も混ぜてくれと現地の人たちが吸い寄せられてくる。
普通に上手いオジサンがいくらでもいて、華麗なヒールリフトや股抜きを成功させてはドヤ顔を見せつけてくる。和気あいあいと技の見せ合いをしているうちに、熱を帯びた勝負になっていたこともある。時間帯によっては近所の子どもたちも混じっていて、それはそれで大切な楽しい思い出だ。
広場で繰り広げられる自由参加のサッカーが、高校生の吉田には心地良かった。ボールと空間さえあればいろんな人が集まり、飽きるまでその遊びが続くのだ。
石川県内でフットサルコートの運営に携わるようになった吉田は、最初は少し不思議だった。日中はいろんな業種の仕事をしている人たちが、夜になるとスポーツウェアに着替えてひとつのボールを蹴っている。心のなかでこう呟いたこともある。この人たちが、ここにボールを蹴りに来るのは、なんでやろ。汗をかくだけなら、ジムでもいいのに。
ふと甦ってきた記憶が、ブラジルの広場でのあの草サッカーだ。
「そういえば、お互いにポルトガル語も日本語もぜんぜん喋れないのに、みんな仲間みたいになって、肩を組んで一緒に歌を歌ったりしてたよな、って。見知らぬ人たちが集まって、ひとつのボールを介して仲間になれる個サルは、ブラジルのあの光景に似ているんです」
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取材の最後に、吉田の「寄り添い方」への共感を伝えると、こんな話が返ってきた。共感はさらに深まった。
「効率的にするのは、誰にでもできるというか」
「手間暇をかけたもののほうが、やっぱり響くんですよね。もちろん時間をかければいいわけではないですが、真剣に考えた時間を人は感じるものなので」
「人それぞれの味のある仕事もそうですし、生き方だってそうですよね」
(文中敬称略)
取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)
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「効率的にするのは、誰にでもできるというか」
「手間暇をかけたもののほうが、やっぱり響くんですよね。もちろん時間をかければいいわけではないですが、真剣に考えた時間を人は感じるものなので」
「人それぞれの味のある仕事もそうですし、生き方だってそうですよね」
(文中敬称略)
取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)
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