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温泉街をスポーツ合宿の聖地に。“掛け替えのない空間づくり”に邁進する男の物語【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:連載・コラム

手嶋真彦

2022年06月25日

効率を追求するつもりはない。同じ合宿はひとつもないからだ

サッカー合宿の利用者には小学生のチームも。石川県七尾市は官民一体となり、地域活性化にスポーツを活用する。写真提供:株式会社石川スポーツキャンプ

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 地域をより強く巻き込んでいくきっかけとなったのが、地元紙の報道だ。もともと宿泊客/交流人口(観光客)の減少に歯止めをかけるためのスポーツ合宿誘致であり、その効果が具体的な数字として紙面を介して周知されると、吉田に協力する人々が次第に増えていく。

「こちらからのいろんな注文によく応えてくれた、旅館や行政の皆さんには本当に感謝しています。スポーツ合宿の実績を着実に増やしていけたのは、石川県サッカー界の仲間たちが後押ししてくれたからです。県外のチームに和倉はいいぞと、みんな宣伝してくれていましたから」

 コロナ禍に見舞われる前までサッカー合宿の利用者は、高校生のチームがおよそ4割、中学生も4割で、小学生が1割とそれらの子どもたちで9割を占めていた。七尾湾に面した和倉温泉は風光明媚な自然環境を大きな魅力としている反面、交通の便が良いとは言い難い。吉田が積み重ねてきたのは、次回もここで合宿がしたいと満足してもらえるように、滞在環境の質を向上させていくことだった。 

「指導者が余計なことに気を使わず、指導に集中できるのが、たぶん子どもたちの成長にいちばんつながるじゃないですか」 

◇   ◇   ◇

 吉田は高校まで部活動でサッカーを続け、金沢で就職するとこの競技の指導者にもなった。最初は知人に頼まれ中学生たちの面倒を見るようになり、やがて自分自身で育成クラブを運営するほどのめり込む。指導者の目線で指導に集中できる滞在環境を作り、育成年代の選手の目線にもなれる経歴を持つ人物が、七尾市に浸透したスポーツ合宿の総合窓口を担っているということだ。

 滞在環境の質を上げ、維持していくために、吉田は心を砕いてきた。
 
「ひとつは食事です。たとえば懐石料理を楽しめる旅館にとって合宿メシは未知の領域です。なので旅館の関係者に向けた合宿メニューの講習会も開きました。練習や試合を終えた子どもたちの楽しみはメシ、風呂、布団です。旅館の方々にここだけはお願いしますと言い続けてきました。グラウンドでのサポートはわれわれが責任を持って対応しますが、旅館でのもてなしはお願いするしかありません。合宿に来てくれるチームは、どちらも良くて初めて良い遠征だったと思えます」

 スポーツ合宿にありがちなのは、味噌汁が冷めているといった食事についてのクレームらしいと、事前の視察などを通して吉田は知った。

「スポーツだから合宿だから小学生だから、この程度でいい。そういう妥協は一切したくない。これじゃあ腹一杯にならないとか、そういう話を聞けば、すぐに動きましたし、これからも動きます」

 入浴も大勢が集中すれば待ち時間が生じ、それだけ就寝時間も遅くなる。ユニホームやトレーニングウェアの洗濯もまたしかりだ。しっかり睡眠時間を確保できるよう旅館に掛け合い、利用時間を分散させるといった工夫をしてもらう。
 
 エアコンの故障で暑すぎる、眠れないと夜間に連絡が入り、他の旅館を何軒も回って扇風機を大量に借りてきたこともある。夏場であれば日によっては、熱中症対策に欠かせない氷が不足する。気温が上がりそうな日は事前に氷を確保しておき、吉田自身が配って回ることもある。
 
「一つひとつは細かいことなんです。でも、積み重ねていくと、指導者のいろんな負担が軽減されますから」

 吉田は合宿や大会の運営サポートを、「何でも自分に言ってください」と本気のその言葉で始める。どれだけ手間暇かかろうと、一つひとつのチームに寄り添おうと努めてきた。今後も効率を追求するつもりはない。同じ合宿はひとつもないからだ。チームによって事情も異なる。 

「事前にルールを決めておけば楽でしょう。でも、効率を良くすれば、そのしわ寄せで、指導者や子どもたちのストレスになってしまいかねません」

 マッチメイクにも神経を使う。

「大差がつくような試合になってしまえば、せっかくの合宿なのに、どちらのチームにとってももったいない。できるだけ拮抗した試合をさせてあげたいので」

 最近どの学校と試合をしていて、どんな成績か。徹底して事前にリサーチする。対戦相手の指導者が知り合いなら、どうでした? と電話で直接聞くこともある。それでもリサーチどおりにはいかないケースも少なくない。

「トップチームが来るのかどうかまでは分かりませんし、(主力が)何人か抜けて来る場合もありますからね」

 リサーチのための電話が、思いがけず集客につながることもある。え、あの学校が和倉で合宿? じゃあうちも行こうかな、というように。
 
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