「監督が急遽変わって時間がない、さらに新型コロナウイルスのこともあって、いつも行なっている全選手との面談をリモートで行なうことも考えました。ただ、アウトにする面談をしなければいけない選手もいる中、顔を合わせないというのは誠意が伝わらないと思い、結局、会うのに距離の遠い2人(青木剛、高櫻健太)以外は全員対面で話しました」
チームが前へ進むために、いつかは下さなければいけない決断。それは分かってはいるが、岩本GMの中に葛藤がなかったといったら嘘になる。
「アウトにする選手の中には11年在籍した瀧口大輔や7年在籍した近藤大介といった、南葛SCの歴史と言える選手がいました。その歴史を大切に継続した方がいい、という考えもありました。ただ、チームを去ることになった8名は、昨シーズン試合に絡めなかった8名だったこともあり、こちらが予想していた以上に納得してくれました」
むしろ、彼らとの面談を通して関東リーグに昇格できた理由が見えたという。
「みんな、昨シーズン昇格できなければJリーグ入りは難しくなるんじゃないか、僕がGMを退くことになったらクラブ運営が難しくなってしまうのではないか、そう危機感を抱いて、自分にできることをしてくれていたという話を聞きました。すごくありがたかったですね。ちゃんと自分事としてクラブのことを考えていてくれたんです。アマチュアのリーグでプレーしていて、試合に出られなければ不貞腐れるのが普通だと思います。もちろんいろんな思いが交錯していたでしょうが、それでもチームの勝利を優先して協力してくれていた。だから最後、ギリギリのところで昇格できたのかなと」
2020年末に公式サイトで発表された8選手の退団。複雑な気持ちがないわけがない。それでも、南葛SCの今後に期待する前向きなコメントが並んだ。これも本音だろう。2021年シーズンを戦う選手たちは彼らの思いを引き継ぎ、背負って戦っていく。
ピッチ外に目を向ければ、スタジアム計画も進んでいる。葛飾区にスタジアムを作る話は区議会の議題にも上がるまでになった。それだけでも大きな進歩だが、いまだJFL基準を満たすスタジアムも区内にはないのが現状だ。そこで、岩本GMは2021年からは葛飾区と南葛SCとでスタジアム建設に関する定例会議を行なうことをもちかけた。まずは1年以内にスタジアム建設候補地の決定。それを実現すべく、クラブとしてもできることは率先してやっていく覚悟だ。
「言葉を選ばずに言えば、2021年は圧倒して1年で関東リーグ1部へ連続昇格を決めたいです。上位2チームが昇格できますが、優勝して上がりたい。でないと1部で優勝争いできるチームにはならないので。もちろん、2部も難敵・曲者揃いのリーグだということは重々承知しています。でも、だからといってもたもたしていると、Jリーグへの道のりにまた時間を要してしまうので絶対に上がりたい。本来、こんな大それたことを言うのは嫌なのですが、敢えて公言して自分たちのハードルを上げたいと思います」
新シーズンの南葛SCも注目度、期待度は相変わらず高いままだ。
このシリーズ了
取材・文●伊藤 亮
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