当時の彼女の一言で引退の決意を固める
それでも現役を続けていたのは「引退後、何をしていいかまったく分からなかったから」。サッカーしかやってこなかった自分がサッカーを失った時、どうすればいいのか。「引退しなかったのは、お金のためでも、生活のためでもない。他にやることがなかったから。こんな言い方は失礼かもしれないけど、しょうがなくサッカーをやっていた」。
そんな玉乃を救ったのは、当時付き合っていた彼女だった。
「引退したほうが、結婚を考えられるって言ってくれたんですよ。その一言で踏ん切りがつけられたというか。自分の価値はサッカーにしかないと思っていたんです。でも、引退しても一緒にいてくれる人がいる、全世界から見捨てられるわけじゃないんだと思えたら、気持ちが楽になった。肩の荷が下りて、前向きになれて、引退できました」
2009年の12月、7年間のプロ生活にようやくピリオドを打てた。特別なエピソードを神妙に語る玉乃だが、「でも結局、引退後にその彼女にはフラれちゃうんですけどね!」と、あっけらかんと笑う。「それは、その子のせいじゃないですよ。引退した後、路頭に迷い、明確な指針を示せなかった自分が悪い。愛想をつかされても仕方がなかったんです」。
引退後の可能性を模索するなかで、選手のセカンドキャリアの支援活動に力を入れていたのも、そんな苦い思い出があったからかもしれない。
――◆――◆――
紆余曲折を経て、今は新潟のGMとして新たな一歩を踏み出している。以前から、GM職には興味があったという。
「選手の時、いろんなGMの方にかけられた言葉が、どれも嬉しくて。この人がチームを作るうえで、とてつもなく重要な仕事をやっているんだと、そういう尊敬もありました。チームのために、やるべき仕事はきりがないと思うけど、でも、やればやるほど、チームは強くなるはず。現場にも直接関われるし、社長でも監督でもなく、いつかGMという立場でサッカーに関わりたいとは、ずっと考えてはいました」
自分の決断ひとつが、チームの命運を大きく左右するかもしれない。責任のある立場にあることは重々承知している。「一つひとつの決断にこだわって仕事をしていきたい。そのためには隈なく情報を収集して、貪欲に学ばなければならない」と表情を引き締める。
あれほど嫌いになってしまったサッカーについて訊けば、「好きとか嫌いという言葉では表現できないというか……なんだかんだで、小さい頃から人生のほとんどの時間をサッカーに費やしてきましたから」と諭された。サッカーを通じて、天国も地獄も見てきた玉乃が、新潟をどこまで魅力的なチームにするのか。実に興味深い。
PROFILE
たまの・じゅん/1984年6月19日生まれ、東京都出身。現役時代は東京V、徳島、横浜FC、草津でプレー。引退後は解説者や会社経営ほか、博報堂DYメディアパートナーズでスポーツビジネスに携わる。現職は新潟のGM。
※『サッカーダイジェスト』2020年7月9日号より一部修正・加筆して転載。
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
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そんな玉乃を救ったのは、当時付き合っていた彼女だった。
「引退したほうが、結婚を考えられるって言ってくれたんですよ。その一言で踏ん切りがつけられたというか。自分の価値はサッカーにしかないと思っていたんです。でも、引退しても一緒にいてくれる人がいる、全世界から見捨てられるわけじゃないんだと思えたら、気持ちが楽になった。肩の荷が下りて、前向きになれて、引退できました」
2009年の12月、7年間のプロ生活にようやくピリオドを打てた。特別なエピソードを神妙に語る玉乃だが、「でも結局、引退後にその彼女にはフラれちゃうんですけどね!」と、あっけらかんと笑う。「それは、その子のせいじゃないですよ。引退した後、路頭に迷い、明確な指針を示せなかった自分が悪い。愛想をつかされても仕方がなかったんです」。
引退後の可能性を模索するなかで、選手のセカンドキャリアの支援活動に力を入れていたのも、そんな苦い思い出があったからかもしれない。
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紆余曲折を経て、今は新潟のGMとして新たな一歩を踏み出している。以前から、GM職には興味があったという。
「選手の時、いろんなGMの方にかけられた言葉が、どれも嬉しくて。この人がチームを作るうえで、とてつもなく重要な仕事をやっているんだと、そういう尊敬もありました。チームのために、やるべき仕事はきりがないと思うけど、でも、やればやるほど、チームは強くなるはず。現場にも直接関われるし、社長でも監督でもなく、いつかGMという立場でサッカーに関わりたいとは、ずっと考えてはいました」
自分の決断ひとつが、チームの命運を大きく左右するかもしれない。責任のある立場にあることは重々承知している。「一つひとつの決断にこだわって仕事をしていきたい。そのためには隈なく情報を収集して、貪欲に学ばなければならない」と表情を引き締める。
あれほど嫌いになってしまったサッカーについて訊けば、「好きとか嫌いという言葉では表現できないというか……なんだかんだで、小さい頃から人生のほとんどの時間をサッカーに費やしてきましたから」と諭された。サッカーを通じて、天国も地獄も見てきた玉乃が、新潟をどこまで魅力的なチームにするのか。実に興味深い。
PROFILE
たまの・じゅん/1984年6月19日生まれ、東京都出身。現役時代は東京V、徳島、横浜FC、草津でプレー。引退後は解説者や会社経営ほか、博報堂DYメディアパートナーズでスポーツビジネスに携わる。現職は新潟のGM。
※『サッカーダイジェスト』2020年7月9日号より一部修正・加筆して転載。
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
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