今季のマドリーは全体的に攻撃の華やかさは無いが手堅い。
――マドリーはどうでしょうか?
今シーズンのマドリーは、まだどこか本物っぽくないんですよね。モウリーニョの時代を除けば、盤石なディフェンスを敷くっていうより、攻守のバランスで上手く逃げ切ってしまうのがマドリーの特徴だと思うんですけど、今シーズンはそこが少し不安定なのと、攻撃の華やかさが無いように見えますね。
個々の能力は普通じゃなくホントに凄いんですけど、モドリッチがバロンドールの割には輝いていない感じがするし、どうしてもロナウドを失ったっていうのが見えてしまうんですよね。ベイルやベンゼマにしても、やっぱりロナウドがあれだけ相手の注意を引き付けていたからこそ、楽にやれていたのかなといまは思ってしまいますね。ただ全体的に見るとリスクマネジメントがされていて手堅い印象もあります。
――マドリーのソラーリ監督とアトレティコのシメオネ監督は同じアルゼンチン人ですが、考え方にどのような違いがあるのでしょうか?
まったく違いますよね。アルゼンチン人の監督っていうのは、大きく分けてふたつのパターンがあるんです。戦術オタクのような人たちと、芸術系と言われる人たち。これは「ビラルド派」と「メノッティ派」というふうにも言い換えられるんですが、どちらかというとシメオネはビラルド派で、メノッティ派の系譜に連なっているのがソラーリだと思うんですよ。
私が見てきた感じでは、練習方法にしてもすべてをシステマチックにこなしていくのがビラルド派で、メノッティのほうはゲーム方式の練習をやらせながら、選手に的確なアドバイスを送り、チームを作り上げていくんです。(かつてヴェルディなどを率いた)アルディレスは後者のタイプで、毎日毎日ず~っとゲームばかりやっていましたね。
ただ、そこでもらえるアドバイスっていうのが本当に的確なので、彼のひと言で劇的に動きがよくなったりするんです。ゲームというのも、同じメンバーでどんどんコンビネーションを作っていったりとか、やり方はいろいろあるんですけど、なんとなくソラーリはそちらのタイプのように見えますね。
どちらかと言えばビラルド派に近いけど、正確にはビラルド派ともメノッティ派とも言えないのがビエルサ(現リーズ監督)です。いまアルゼンチンで彼は、ニューウェルス・オールドボーイズから派生した“第3の派閥”のような見方をされています。
――アルゼンチン人監督はリーガにもたくさんいますが、どのタイプがもっともフィットするんでしょうか?
どのタイプも合わせようと思えば合わせられるんじゃないですかね。ただ、マドリーだけを考えると、ビラルド派はあまり向いていないような気がしますね。前監督のロペテギがまさしくそのタイプで、彼が率いていた頃のモドリッチなんて、かなりつまらなそうでしたからね。
規律は絶対に必要なんですど、あれだけのビッグな選手たちに向かって、ロペテギはああしろこうしろと細かく指示を出しすぎたような気がするんです。監督自身が考えた攻撃パターンに固執するより、モドリッチの感性のほうが正解に近いときだってあるわけじゃないですか。ロペテギはそういうものを排除していたように見えたんですよね。
――日本人選手についてはどうでしょう?
ベティスの乾は、もう少し決定力を高めたいですね。本人もわかっているんでしょうけど、どんなにいいプレーをしていても、最後のフィニッシュのところでどうしてもクオリティー不足が露呈されてしまうんです。いわゆる「点を取る」「点を取らせる」という部分ですよね。
私はシーズン前、あのポジション(ツーシャドーの一角)をやるのなら、ゴールに直結するプレーの中でクオリティーを示していかないと難しくなるだろうって話していたんですが、残念ながら、その通りになってしまいました。
でも最近、乾に代わってそのポジションで出場しているロ・チェルソあたりは、シュートやアシストの質が高いので、乾は彼のプレーを見て、それがプレッシャーになり、悪循環に陥ってしまっているのかもしれないですね。ただ、プレー自体は悪くないので、ゴールやアシストが決まり始めれば、状況が劇的に変わることはあると思います。
柴崎に関しては、「どうして移籍しなかったの?」って感じですかね。おそらくヘタフェのボルダラス監督もチームメイトも、だれも柴﨑のことを悪い選手だとは思っていないはずなんです。でも、あのチームではすべてにおいてフィジカルが優先されていて、それで結果も出ていますからね。
それこそベティスあたりにいけば、もっと面白いプレーができるのにって感じがしますけどね。間違いなく力はあるわけだから。本調子ならスペインでも十分やれることは分かってるんですけど、いまのヘタフェのサッカーの中では彼の良さを活かしにくいんです。
取材協力:WOWOW
取材・文:竹田忍(サッカーダイジェストWeb編集部)
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【解説者PROFILE】
都並敏史/元日本代表DF、国際Aマッチ78試合。引退後はベガルタ仙台などの監督を歴任。2019年よりブリオベッカ浦安の監督に就任。<選手経歴>読売クラブ→ヴェルディ川崎→アビスパ福岡→ベルマーレ平塚(1998年引退) <日本代表歴>78試合出場2得点
今シーズンのマドリーは、まだどこか本物っぽくないんですよね。モウリーニョの時代を除けば、盤石なディフェンスを敷くっていうより、攻守のバランスで上手く逃げ切ってしまうのがマドリーの特徴だと思うんですけど、今シーズンはそこが少し不安定なのと、攻撃の華やかさが無いように見えますね。
個々の能力は普通じゃなくホントに凄いんですけど、モドリッチがバロンドールの割には輝いていない感じがするし、どうしてもロナウドを失ったっていうのが見えてしまうんですよね。ベイルやベンゼマにしても、やっぱりロナウドがあれだけ相手の注意を引き付けていたからこそ、楽にやれていたのかなといまは思ってしまいますね。ただ全体的に見るとリスクマネジメントがされていて手堅い印象もあります。
――マドリーのソラーリ監督とアトレティコのシメオネ監督は同じアルゼンチン人ですが、考え方にどのような違いがあるのでしょうか?
まったく違いますよね。アルゼンチン人の監督っていうのは、大きく分けてふたつのパターンがあるんです。戦術オタクのような人たちと、芸術系と言われる人たち。これは「ビラルド派」と「メノッティ派」というふうにも言い換えられるんですが、どちらかというとシメオネはビラルド派で、メノッティ派の系譜に連なっているのがソラーリだと思うんですよ。
私が見てきた感じでは、練習方法にしてもすべてをシステマチックにこなしていくのがビラルド派で、メノッティのほうはゲーム方式の練習をやらせながら、選手に的確なアドバイスを送り、チームを作り上げていくんです。(かつてヴェルディなどを率いた)アルディレスは後者のタイプで、毎日毎日ず~っとゲームばかりやっていましたね。
ただ、そこでもらえるアドバイスっていうのが本当に的確なので、彼のひと言で劇的に動きがよくなったりするんです。ゲームというのも、同じメンバーでどんどんコンビネーションを作っていったりとか、やり方はいろいろあるんですけど、なんとなくソラーリはそちらのタイプのように見えますね。
どちらかと言えばビラルド派に近いけど、正確にはビラルド派ともメノッティ派とも言えないのがビエルサ(現リーズ監督)です。いまアルゼンチンで彼は、ニューウェルス・オールドボーイズから派生した“第3の派閥”のような見方をされています。
――アルゼンチン人監督はリーガにもたくさんいますが、どのタイプがもっともフィットするんでしょうか?
どのタイプも合わせようと思えば合わせられるんじゃないですかね。ただ、マドリーだけを考えると、ビラルド派はあまり向いていないような気がしますね。前監督のロペテギがまさしくそのタイプで、彼が率いていた頃のモドリッチなんて、かなりつまらなそうでしたからね。
規律は絶対に必要なんですど、あれだけのビッグな選手たちに向かって、ロペテギはああしろこうしろと細かく指示を出しすぎたような気がするんです。監督自身が考えた攻撃パターンに固執するより、モドリッチの感性のほうが正解に近いときだってあるわけじゃないですか。ロペテギはそういうものを排除していたように見えたんですよね。
――日本人選手についてはどうでしょう?
ベティスの乾は、もう少し決定力を高めたいですね。本人もわかっているんでしょうけど、どんなにいいプレーをしていても、最後のフィニッシュのところでどうしてもクオリティー不足が露呈されてしまうんです。いわゆる「点を取る」「点を取らせる」という部分ですよね。
私はシーズン前、あのポジション(ツーシャドーの一角)をやるのなら、ゴールに直結するプレーの中でクオリティーを示していかないと難しくなるだろうって話していたんですが、残念ながら、その通りになってしまいました。
でも最近、乾に代わってそのポジションで出場しているロ・チェルソあたりは、シュートやアシストの質が高いので、乾は彼のプレーを見て、それがプレッシャーになり、悪循環に陥ってしまっているのかもしれないですね。ただ、プレー自体は悪くないので、ゴールやアシストが決まり始めれば、状況が劇的に変わることはあると思います。
柴崎に関しては、「どうして移籍しなかったの?」って感じですかね。おそらくヘタフェのボルダラス監督もチームメイトも、だれも柴﨑のことを悪い選手だとは思っていないはずなんです。でも、あのチームではすべてにおいてフィジカルが優先されていて、それで結果も出ていますからね。
それこそベティスあたりにいけば、もっと面白いプレーができるのにって感じがしますけどね。間違いなく力はあるわけだから。本調子ならスペインでも十分やれることは分かってるんですけど、いまのヘタフェのサッカーの中では彼の良さを活かしにくいんです。
取材協力:WOWOW
取材・文:竹田忍(サッカーダイジェストWeb編集部)
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【解説者PROFILE】
都並敏史/元日本代表DF、国際Aマッチ78試合。引退後はベガルタ仙台などの監督を歴任。2019年よりブリオベッカ浦安の監督に就任。<選手経歴>読売クラブ→ヴェルディ川崎→アビスパ福岡→ベルマーレ平塚(1998年引退) <日本代表歴>78試合出場2得点
【都並敏史のリーガ見聞録|第4回】アトレティコはこれからどんどん良くなると思います――WOWOWオフィシャルサイトにて公開中!