試合後にミシャは次のようにも話した。「広島はリーグ優勝の経験があり、２点をリードされたなかでも落ち着いてプレーをしていた」と。そしてその“落ち着き”という部分では、広島の最終ラインを牽引していた千葉和彦の言葉が興味深い。今季は4バックで戦ってきた広島は、この試合を３バックでスタートさせていたのだが、千葉は「久しぶりに３バックで試合をしたので、なかなか感覚が取り戻せなかった」としながらも「札幌の3バックの動きを見ながら、『ああそうか、そうやるんだった』と思い出しながら調整した」と半ば冗談交じりで口にしていた。敗れれば4位転落の可能性がある最終節で、それだけ精神的な余裕を持って試合をしていたのだから、それもやはり経験値がモノを言っているのだろう。
 
「2点差は危険なスコア」とも言われるが、実際に2点差が埋まるケースというのはそう多くはない。そうしたなかで今季躍進を見せていた札幌が最終節という重要な場面で2点差を追いつかれ、3位入りを逃してしまった。そしてその要因は簡単に語り尽くせるものでもないはず。前述したいくつかのアレコレも、一部分を切り取っただけにすぎない。
 

　ただし、決定的に言えるのは、どんなチームも今回の札幌のような経験をして強くなっていくのだろうということ。広島だって同じような経験をしたことがあるだろうし、千葉にしても若い頃から同じようなメンタリティでプレーできていたわけではないはず。その意味では最終節に2点差を追いつかれた出来事は札幌にとって貴重な財産になるのだろうし、近い将来必ず、この広島戦の経験を生かして歓喜を掴み取る場面が訪れるはずだ。
 
　そして自力だろうと他力だろうと、ACL出場の価値は変わらない。今季の札幌が素晴らしかった事実も揺るがない。ACL出場が決定した暁には、自信を持ってその攻撃的なサッカーで今度はアジアを席巻して欲しい。
 
取材・文●斉藤宏則（スポーツライター）