限界を上回る「たくさんの長所」がある。
その3日後に行われたサンプドリア戦でも、地味ながら攻守両局面でミスの少ない安定したパフォーマンスを見せ、84分に途中交代した時には、それまで何度も長友にブーイングを浴びせてきたサン・シーロのインテリスタが、スタンディング・オベーションでそのプレーを讃えるという場面も見られた。
スパレッティ監督も試合後こうコメントしている。
「観客が長友に拍手を贈ったのはとても良かった。長友には限界もあるが、それを上回るたくさんの長所を持っている。その献身性は他に比べようがない。我々にとってとても貴重なプレーヤーだ」
スパレッティのいう「限界」にはいくつかの側面がある。攻撃において単独で局面を打開できる1対1の突破力(例えばマルセロやダニエウ・アウベスのような)や、決定的な場面を演出する強力で質の高いクロス(例えばアレクサンダル・コラロフやマルコス・アロンソのような)を持っているわけではない。170cmという身長は、SBにも空中戦の強さが要求されるモダンフットボールにおいては、明らかなハンディキャップだ。サンプドリア戦で84分にベンチに退いたのも、最後の10分足らずを凌ぎ切るパワープレー対策で、186cmのサントンを投入したためだった。
しかし、長友がインテルでレギュラーの座を守り続けているのは、そうした限界を上回る「たくさんの長所」があるからこそだ。それはイタリアでの7年あまりを通して着実に積み上げてきた経験とそれによって培われた戦術感覚、プレーヤーとしての総合的な成熟がもたらしたものだろう。
今やチーム最古参で、ロッカールームには欠かせないムードメーカーだというだけでなく、出場機会が少なくとも常に努力と自己研鑽を怠らず、チャンスがあれば必ず最大限の力を出し切ってそれに応えるという「プロフェッショナルの鑑」ともいうべき姿勢が、クラブからも監督からも、そしてチームメイトからも大きな信頼とリスペクトを集めていることは、容易に想像がつく。
長友は試合の中で勝敗を左右するような決定的な働きを見せる「主役」ではない。しかし試合の流れを的確に読み、チームを組織として機能させるために必要な補完的な動きで全体のバランスを取り秩序を保つ、不可欠な「脇役」として大きな存在感を発揮しているのだ。
12試合で9失点という堅固な守備を土台に、ナポリ、ユベントスとセリエAの首位争いを繰り広げているインテルの好調は、マルロ・イカルディやペリシッチという「主役」たちだけでなく、長友という「脇役」に支えられている部分も大きい。きっと日本代表にも、そのポジティブな波及効果をもたらしてくれるはずだ。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。ジョバンニ・ビオ氏との共著『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』が2017年2月に刊行された。
スパレッティ監督も試合後こうコメントしている。
「観客が長友に拍手を贈ったのはとても良かった。長友には限界もあるが、それを上回るたくさんの長所を持っている。その献身性は他に比べようがない。我々にとってとても貴重なプレーヤーだ」
スパレッティのいう「限界」にはいくつかの側面がある。攻撃において単独で局面を打開できる1対1の突破力(例えばマルセロやダニエウ・アウベスのような)や、決定的な場面を演出する強力で質の高いクロス(例えばアレクサンダル・コラロフやマルコス・アロンソのような)を持っているわけではない。170cmという身長は、SBにも空中戦の強さが要求されるモダンフットボールにおいては、明らかなハンディキャップだ。サンプドリア戦で84分にベンチに退いたのも、最後の10分足らずを凌ぎ切るパワープレー対策で、186cmのサントンを投入したためだった。
しかし、長友がインテルでレギュラーの座を守り続けているのは、そうした限界を上回る「たくさんの長所」があるからこそだ。それはイタリアでの7年あまりを通して着実に積み上げてきた経験とそれによって培われた戦術感覚、プレーヤーとしての総合的な成熟がもたらしたものだろう。
今やチーム最古参で、ロッカールームには欠かせないムードメーカーだというだけでなく、出場機会が少なくとも常に努力と自己研鑽を怠らず、チャンスがあれば必ず最大限の力を出し切ってそれに応えるという「プロフェッショナルの鑑」ともいうべき姿勢が、クラブからも監督からも、そしてチームメイトからも大きな信頼とリスペクトを集めていることは、容易に想像がつく。
長友は試合の中で勝敗を左右するような決定的な働きを見せる「主役」ではない。しかし試合の流れを的確に読み、チームを組織として機能させるために必要な補完的な動きで全体のバランスを取り秩序を保つ、不可欠な「脇役」として大きな存在感を発揮しているのだ。
12試合で9失点という堅固な守備を土台に、ナポリ、ユベントスとセリエAの首位争いを繰り広げているインテルの好調は、マルロ・イカルディやペリシッチという「主役」たちだけでなく、長友という「脇役」に支えられている部分も大きい。きっと日本代表にも、そのポジティブな波及効果をもたらしてくれるはずだ。
文:片野道郎
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。ジョバンニ・ビオ氏との共著『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』が2017年2月に刊行された。