佐藤寿人――偉大なストライカーが歩んだ道と愛される理由

カテゴリ:Jリーグ

中野和也

2016年12月02日

広島にやってきたストライカーを、サポーターは当初、懐疑的な目で見ていた。

寿人が広島に移籍加入した当時、茂木弘人と前田俊介という才能に満ちたFWがいた。(C)SOCCER DIGEST

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 移籍が発表されるとサポーターの思いは、揺れた。
 「仙台でずっと、プレーしてほしい」
 もちろん、そう願った。
 「自分の身体が切り刻まれるように、痛い」
 そんな言葉も、仙台サポーターから当時、耳にした。
 
 だが一方で、彼らは寿人に対して「裏切り者」だとか、「ガッカリだ」とか、そういう罵声を浴びせることはほとんど、なかった。もちろん、そう考える人も中にはいただろう。寿人に対して憤っていた人もいたに違いない。だが、多くの人々は、佐藤寿人を広島に送り出すことを苦さと共に受け入れ、彼の活躍と未来を願った。
 
「仙台が彼にふさわしいクラブとなった時、もう1度、彼を買い戻すしかない。そしてキャリアの最後を仙台で終えてほしい」
 
 当時、仙台を取材していた記者にそんな話を聞かされた時、胸が張り裂けそうになった。
 
 仙台からの盲目的な愛を振り切って広島にやってきたストライカーに対し、サポーターは当初、懐疑的な目で見ていた。当時の広島には茂木弘人と前田俊介という才能に満ちたFWがいた。圧倒的なスピードと強烈なパンチ力を持つフィジカル・モンスター=茂木。圧巻のテクニックと創造性を持ち合わせたファンタジスタ=前田。ふたりが広島の未来を背負って得点を量産する姿を、多くのサポーターが夢見ていた。
 
 そこに23歳の寿人が入ってくる。小野剛監督自らが織田強化部長(いずれも当時)とともに獲得に動いたストライカーだから、期待はしたい。だが、茂木や前田の存在はいったい、どうなるのか。
 
 サポーターは常に、「生え抜き」に期待する。広島だけでなく、多くのクラブで、そういう感情が働く。必然的に移籍してきた選手に対しては視線が厳しい。まして、FWにはすでに若い人材はいたのだから。
 
 寿人はキャンプの練習試合でまったく得点がとれなかった。開幕戦でスタメンの座を握り奮闘したが得点を奪えず、65分に交代。交代で入った茂木が同点ゴールを決めた姿を見て、多くの人々が「やはり茂木だ」と歓声をあげた。第2節もノーゴール。第3節からはベンチにさがり、やがて足の負傷もあってベンチからも消えた。
 
 その間、茂木が3得点。前田が5節で先発起用されると、いきなり1得点1アシスト。次の試合でも森﨑和のゴールをアシストするなど、抜群の存在感を示した。
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