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帝京で選手権連覇、大人気企業の社員からプロへ、内緒で教員試験に合格…波瀾万丈キャリアを歩んだ元Jリーガーが地元・埼玉で貫くイズム

カテゴリ:Jリーグ

河野 正

2024年07月30日

31歳で現役引退して教職へ。「初めは声が震えていました」

山田コーチ(右)と話し込む岩井監督。昨秋の選手権予選ではベスト16に進出した。写真:河野正

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 30歳を過ぎた頃から引退後を思案し、大学進学時に描いていた教師を最優先に考えた。98年は日本が初出場したワールドカップ・フランス大会のため、Jリーグは5月初旬から7月末まで中断していた。

 同年7月、クラブには内緒で受けた埼玉県公立学校教員採用選考試験に合格。県教育委員会の記者発表前日、さすがに隠し切れなくなり、テクニカルアドバイザーの菊川凱夫に事実関係を伝えた。もうこの時、ユニホームを脱ぐ腹は固まっていた。

「でも来年からまったく違う仕事に就くと思うと、身体はきつくなりかけていたがまだできるんじゃないか、なんて思いはじめ、寂しさが出てきました。同時に少し不安も感じましたね」

 99年4月、新米教師は母校の川口市立神根中に着任。この1か月前、中学時代の恩人に頼んで授業を見学させてもらったほか、神根中でも複数の先生の授業を見て学んだが、「教え方というのがすごく難しく、初めは声が震えていました」と振り返る。同時にサッカー部も指導したが、顧問は岩井だけだった。

 神根中に3年奉職し、蕨市立東中に6年、その後はいずれも川口市立の学校で、芝園中に2年、戸塚中に7年、芝中に3年勤務。「運動はほぼなんでもできましたが、それをどう教えるのか、なかでも保健の授業は特に苦労しました。教師として部活動の顧問として、ようやく流れに乗れてきたのを感じたのは、蕨東中に転勤した頃です」と回想する。

 川口市は中学と高校の人事交流が盛んで、中学教諭が高校に異動することがよくある。2020年、岩井は川口市立の3校(川口、川口総合、県陽)に統合され、18年に開校した川口市立高へ転勤する。違う環境での挑戦を考え希望を出していたのだ。

 授業でも部活動でも高校生へのアプローチの仕方は、一段大人になっただけに中学生とは違った。

 プロ選手は観客に喜びを提供することが使命だが、今は教師として「教えたことを生徒がマスターしてくれた時に喜びを感じます。人のために尽くすのは大変ですが、やりがいでもありますね」とうなずいた。
 
 高校サッカーの指導は初めてのため、強豪校の練習を見させてもらい勉強もした。赴任2年目の秋には人工芝グラウンドが完成。現在は山田純輝、岩橋壽弘という有能なコーチが参謀役となって補佐する。

 全国高校選手権埼玉予選は、昨秋のベスト16が最高成績だ。「うまくなりたい、強くなりたいと思ったら何が足りないのか、ここを伸ばすには何をすべきかを自ら考えないといけない。言われたからやるのではなく、自分から課題を持って取り組むべき」との持論を述べる。

 岩井は中学・高校時代、足を速くしようと俊足の先輩がつま先で歩いているのを見て真似をし、筋力強化のために自転車は片脚でこいだ。大学では月、水、金曜の筋トレを4年間続け、全日本大学選抜の合宿では筑波大のDF井原正巳の長所を参考にした。プロ入りすると、当時世界最高のCBと言われたフランコ・バレージだけを見るためにセリエAの観戦に出掛けている。

 チーム作りの哲学を問うと、「周りの状況をよく観察して常に考えながら動き、最良の判断を選手が下せるチーム」と即答した。

 サッカー人生で一番の思い出を尋ねた。高校、大学での日本一やJリーグ開幕にも立ち会うなど、数多くの経験をしてきたというのに、返ってきた言葉に意表を突かれた。

「1-0で勝っていた全日本少年大会埼玉予選準決勝で、自分の反則からFKを与え失点してPK戦負け。中学でも全国大会につながる埼玉予選準々決勝で、自分がGKとの1対1を外して敗退したんです。余計な反則をしない、1回のチャンスを大切にする。これこそが自分の原点。指導者になってからも、選手にはこのふたつを伝えています」

 岩井は小さい頃から失敗と反省を糧にし、一流選手へと栄達した。

(文中敬称略/名称はいずれも当時)

取材・文●河野 正

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