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小江戸川越のサッカーチームから生まれた、コエドによるまちづくりの新たな取り組み【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2023年07月15日

もっと明るい未来を見据えて

J1の柏でプレーしている片山も、川越高サッカー部の出身。諸田先生の教え子のひとりだ。写真:滝川敏之

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 人と人との接点が増えつづけ、豊かな協育や共育が可能となる土台を、横田たちは「ライフプラットフォーム」と呼ぶ。

「生活に関する情報を集められて、悩みも気軽に相談できる。自分の可能性を広げていくヒントがもらえて、やりたいことを実現できる。そういうライフプラットフォームの上で、街自体がどんどん賑やかになっていく。そんなイメージです」

 孤独を感じる時間が増えていたり、頼りにできる人が近くにいなかったりで、視野や可能性を狭めているのは、子どもたちだけではないだろう。横田たちの言うライフプラットフォームとは、世代を問わずに暮らしやすく、生きやすい環境をつくっていく土台そのものだ。

 川高蹴球会の曲がり角から始まった横田たちの議論は、コエドスポーツなどの教育(協育、共育)の取り組みに繋がり、ライフプラットフォームというウィクリップのミッションにも繋がった。

 議論を深めていくなかで、どうせやるなら、川高蹴球会が長年お世話になっている川越という地域を活性化する取り組みにできないかという話になる。そこで浮かび上がったのが、次の疑問だ。

 地域を活性化するとは?

 5人の意見はやがて一致する。活性化している地域の人たちは、みんな幸せなのではないか――。

「幸せのかたちって、人それぞれ違うよね。でも、やりたいことを自分で選択できれば、たぶん誰もが幸せを感じられるよね。だとすれば、みんなが幸せを体現できる環境をつくっていくことが大事だよね。そんな話をしていたと思います」

 weclipという社名は「We create our life platform for a brighter future」を略したものだ。もっと明るい未来へ、私たちは私たちのライフプラットフォームを創造する。横田たちが掲げた看板には、そんな願いと決意が込められている。
 取材当日、横田は埼玉県立川越高校サッカー部の部員たちにまじり、その校庭でボールを蹴っていた。川高蹴球会はその名のとおり、川越高サッカー部のOBで結成した社会人チームだ。現在は最年長の47歳から、43歳の横田や、今春川越高を卒業したばかりの若者まで年齢層は幅広く、川越高OB以外の選手もいる。

「毎年いろんな人が入ってくるので、これは面白いと思うようになりました」

 この日のように高校生たちと合同練習する週末もあるそうだ。広々とした同じ校庭では野球部も活動している。映画やTVドラマ「ウォーターボーイズ」のモデルにもなった男子校ですと、筆者に付き合い、隣で合同練習を見ていた横田が教えてくれる。

 川越高の高校生がOBの先輩に進路相談をする。川高蹴球会の大学生が社会人のOBに就活の話を聞く。社会人のOB同士はビジネスの情報を交換し合う。もっともっとそういう機会が増えていけばと、横田は願っている。

 川高蹴球会が生まれたのは、悔しさからだ。川越高は2015年のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章も卒業生という進学校ながら、横田が3年生の年はサッカー部が全国選手権の埼玉県予選で大健闘する。

 その年のインターハイ県予選で3位に入った高校からも勝利を収めたが、続く最後の試合は、悔しさが尾を引くような幕切れだった。

「この試合に勝てばベスト16進出という試合で、延長戦のラストワンプレーで同点にされたんです。PK戦で負けました」

 全国レベルの強敵とも互角に渡り合えるほどサッカー部が強くなっていたのは、横田が1年生の年に川越高に赴任した諸田純一という顧問の先生のおかげだった。

「温厚で、黙って練習を見ているタイプの先生でした。ああしろ、こうしろと指示するのではなく、ヒントをくれる。サッカー部の部員たちが、自分で考えながらプレーできるようにです」

 ひょっとして、スラムダンクの安西先生を彷彿とさせるタイプの?

「ああ! そうかもしれないです。ユーモアもすごくあって」

 川高蹴球会がチームのモットーとしているのは、「やってて楽しく、見てて楽しく、なおかつ勝てるサッカー」だ。これはまさしく川越高サッカー部の顧問だった諸田が志向し、横田たちが体現しようと試みていたサッカーに他ならない。

 きっと川高蹴球会が生まれた根底にある悔しさ以上の理由は「部活動のサッカーが楽しかったから。サッカーが大好きだったから」ではないだろうか。

 そう考えると、川高蹴球会から派生したウィクリップのルーツは、諸田という指導者にも求められるのではないか? そう問い掛けると、横田は強く頷(うなず)いた。

「本当に、そのとおりだと思います」

 ある意味で、これは教訓めいた話でもあるのだろう。指導者の大人が子どもたちに与える影響は大きいからだ。

「それで言うと――」

 横田がすかさず反応する。

「自分がサッカーを続けてきた最初のルーツは、小学校時代のコーチの先生かもしれません。水村富美子先生です」

 横田の記憶では、水村はハンドボールの世界では有力な選手だったが、サッカー自体の競技経験はなかったはずだ。

「諸田先生も水村先生も自由にやらせてくれました。型にはめようとするのではなく。だから楽しかったんだと思います」

 横田は今でも、水村先生からいただいた手紙を大切に仕舞っている。その文面は、こう結ばれている。「これからも何事にもチャレンジ精神を持って頑張って下さい。横の笑顔は最高!」。

 横田は優しいその笑顔を携えながら、小江戸川越という大好きな地元に恩返ししていくためにも、ウィクリップの仲間たちとコエド(co-ed)の挑戦をひたむきに続けていくに違いない。(文中敬称略)

取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)

※サッカーダイジェスト2023年6月8日号から転載

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