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Jクラブ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノスフトゥーロ」。みんなが共に生きていける優しい未来へ【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2023年01月25日

未来を意味するフトゥーロ。チーム名に願いを込めて

フトゥーロは週2~3回程度の活動を横浜ラポールや市内の複数会場を中心に続けている。(C)1992 Y.MARINOS

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 横浜F・マリノスがJリーグ初の知的障がい者サッカーチームを立ち上げたのは、今から19年前の2004年。地道で貴重なこの取り組みをどのように継続し、発展させてきたのだろうか。そしてどのような未来を見据えているのか。取り組みの担い手たちに話を聞いた。

――◆――◆――

「知的に障がいのある人たちのサッカーチームです」

 事前にそう知らされていなければ、すぐには気づかなかっただろう。みんな一生懸命プレーしている。楽しそうだ。コートのそばで1時間あまり練習を見させてもらいながら、何度も浮かんできた感想が、このふたつだった。

「特段、難しい配慮は必要ありません」

 筆者の隣で練習を見守る望月選(えらぶ)が、微笑みながら、教えてくれる。

「ただし、コーチからの説明を理解するのに時間がかかる場合もあるので、伝え方を工夫します。実際にコーチが手本を見せたり、作戦盤なども使って、細かく、丁寧に、時間をかけて、です」

 横浜F・マリノスが、知的障がい者サッカーチームを結成したのは、今から19年前の2004年だ。チーム名はスペイン語で「未来」を意味するフトゥーロと命名した。このようなサッカーチームが当たり前のように存在する「未来に向けて……」「未来はきっと……」。そんな願いが込められている。

 横浜F・マリノスフトゥーロの選手数は、初年度の41名から少しずつ増え、現在は100名を超えている。その一方で知的障がい者サッカーのチームを持つJクラブは、現時点ではF・マリノスと19年にチームを立ち上げた鹿児島ユナイテッドFCの2クラブだけだ。F・マリノスは地道なこの活動を、どのように続けてきたのか。先駆者として、どのような「未来」を見据えているのか――。

 Jリーグの理念である「地域に根ざしたチームづくり」を目指し、04年のフトゥーロ結成当初はF・マリノスの普及活動を統括するスクールのコーチとして、09年以降は地域の人々とのふれあい活動を統括するリーダーとして、この取り組みを見守りつづけてきた望月に――そしてF・マリノスと理想的な協働を続けてきた障がい者スポーツの専門家にも――話を聞いた。
 JFA傘下の日本障がい者サッカー連盟には7つの団体が加盟している。アンプティサッカー(切断障がい)、CPサッカー(脳性麻痺)、ソーシャルフットボール(精神障がい)、電動車椅子サッカー(重度障がい等)、ブラインドサッカー(視覚障がい)、ろう者(デフ)サッカー(聴覚障がい)、そして筆者が練習を見学させてもらった知的障がい者サッカーだ。

 それぞれに「障がい特性」があり、見た目だけではわかりにくい特性もある。知的に障がいのある人のなかには、障がい特性が見えにくい人も少なくないため、それが周囲の支援を難しくさせている側面もあるという。

 筆者が見学させてもらったフトゥーロのトレーニング中に、体格の良い青年が強烈なシュートを叩き込んだ。選手を4つのチームに分けた試合形式の練習中だ。

 右足でゴールを決めたその青年は照れくさそうに、それでも両手の人差し指を顔のそばに立てると、前後に揺らす。控え目とはいえ、様になったゴールパフォーマンスだ。試合が終わると青年はタッチラインの外に戻り、筆者のすぐそばに腰を下ろす。ゴールが嬉しかったのだろう。初対面の筆者にも右手を伸ばし、軽く肩に触れるというボディタッチを通して、喜びを伝えてくれた。

「びっくりしちゃった」

 笑顔でそう呟く青年に、どうしてですか? ゴールを決めたことがあまりない? 話しかけるとウンとうなずき、興味深げに筆者の取材メモをのぞき込んでくる。ごく短いやりとりではあったが、この青年にどのような障がいがあるのか、筆者にはわからなかった。

 知的障がいとは、どのような障がいなのか? おそらくは素朴すぎた筆者のこの質問に、小山良隆は困ったような顔になる。フトゥーロにチーム創設時から深く関わりつづけてきた小山は、「障害者スポーツ文化センター横浜ラポール」の職員で、障がい者スポーツのスペシャリストでもある。

 小山の丁寧な説明を筆者なりにまとめると次のようになる。知的障がいは発達障がいに伴って現われることもある。発達障がいとは発達に凸凹(おうとつ)こそあるものの、ずっと発達しない障がいではない。ただし、見た目ではわかりにくく、本人が生きづらさを感じる、場合によっては社会生活が困難になることもある。

 発達障がいの人たちのなかには、注意欠陥・多動性障がい(ADHD)の障がい特性のある人と、自閉症スペクトラム(ASD)の障がい特性のある人がいる。知的に障がいのある人は、ADHDの特性のある層、ASDの特性のある層、その両方の特性のある層などに分けられるが、それもあえて分類するならで、実際には一人ひとり異なる個別性があり、その程度も様々だ。

「サッカーの場面では成育歴が影響する場合もあります。障がい特性なのか、成育歴も影響しているその選手のキャラクターなのか、判断が難しいケースもあるわけです。同じような障がい特性だからといって、同じ指導で同じ理解になるかといえば、そうはなりません」(小山)

 考えてみれば、“健常者”と言われる人々も、多種多様で全員違う。それと同様に、知的に障がいのある人たちも多種多様で全員違うということだ。

 それでもフトゥーロの選手たちのなかには、共通の傾向“らしき”ものもあるという。理解し行動するのに時間がかかり、コミュニケーションが苦手という傾向だ。だからこそ――。望月と小山は口を揃える。だからこそ、サッカーを続けていく大きな意味があるのだと。
 
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