• トップ
  • ニュース一覧
  • 怪我の予防からポテンシャルの最大化へ。スポーツテック企業が見据える未来と課題【日本サッカー・マイノリティリポート】

怪我の予防からポテンシャルの最大化へ。スポーツテック企業が見据える未来と課題【日本サッカー・マイノリティリポート】

カテゴリ:Jリーグ

手嶋真彦

2023年05月18日

心身に異変をきたす予兆の多くは水面下に

ワンタップスポーツを早くから活用している神戸の酒井。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

画像を見る

 人は一人ひとり全員違う。アスリートの怪我を未然に防ぐ取り組みでは、その全員違うという個別性の壁を乗り越えていかなければならない。

 30人の選手が所属しているサッカーチームであれば、コンディションの異変に注意を払うアスレチックトレーナーやフィジカルコーチは、異なる身体と異なるメンタルを持つ30人一人ひとりと個別に向き合わなければならない。

 対面のヒアリングや紙のノートに記録といったアナログな管理手法では時間がどれだけあっても足りない。向き合う選手の数が増えれば、それだけ怪我の予兆を見落とすリスクも高くなる。

 トレーナーやコーチから、コンディション管理の手間暇を劇的に減らせるのがテクノロジーだ。橋口たちが提供しているワンタップスポーツを活用すれば、30人それぞれの心身の状態をはるかに容易に並行して把握できるようになり、異変やその兆しに気づきやすくなる。

 ワンタップスポーツを利用するアスリートは毎日、その日の疲労度、筋肉の張りや痛み、感じているストレスのレベル、睡眠の質、栄養の質といった主観値を入力する。スマホを使えば、1分もかからずに全ての情報を入力できる。

 他方では客観値となるデータも蓄積していく。GPSに加えて、身体装着型と非装着型がどちらも増えている様々なセンシングデバイスを組み合わせて活用すれば、身体組成や心拍変動などの各種バイタルデータを半自動的に記録していける。

 主観と客観の両面から心身の状態を把握し、怪我のリスクが高まれば、コンディション管理者にアラートが届く。人は一人ひとり全員違う。我慢強い人もいて、痛みに過敏な人もいる。好調だと言って譲らないアスリートの異変が、客観データから掴めることもある。客観値に異常はなくても、主観的な違和感が怪我の防止に繋がることもある。

 極限予見ソフトとして開発を依頼されたワンタップスポーツの汎用化の可能性に、橋口たちは少しずつ目覚めていった。ラグビー以外の競技でも、サッカーのような集団スポーツから各種の個人競技まで、幅広く活用してもらえるのではないか。用途も怪我の防止に限らず、コンディションの維持やピーキング、パフォーマンスの最大化へと広げていける。
 
 カテゴリーもトップオブトップの代表レベルやプロスポーツだけでなく、育成年代や部活動での健全な成長支援にも活かせるだろう。競技ごとのピラミッドの裾野でも、もっと言えばスポーツとは距離を置く人たちの健康管理にも、役立ててもらえるに違いない――。

 スポーツ史上最大の大番狂わせとも評された南アフリカ戦のインパクト、それゆえの説得力たるや、絶大なものだった。ワンタップスポーツのユーザーは右肩上がりに増え続け、いまや26競技の日本代表が利用する。Jリーグは47クラブ、プロ野球は6チーム、BリーグはB1・B2の全クラブへと広がった。部活動などの学生スポーツまで合わせると71競技、1700以上のチームが活用しているという(2022年11月現在)。

 競技別ではサッカーのユーザーが最も多い。エディージャパンを参考にしてレベルの高い取り組みを続けているのが、ブラインドサッカーの日本代表だ。プロフットボーラーでは、ヴィッセル神戸の酒井高徳が早くからワンタップスポーツを熱心に活用している。このあたりの話には後編で触れることになるだろう。

 アスリートであれ、アスリート以外であれ、人を氷山に見立てれば、心身に異変をきたす予兆のほとんどは水面下に隠れている。水面下の予兆を可視化するワンタップスポーツのユーザーが増え、多様化していくに連れて、コンディション管理以前の様々な問題に直面するようになったと、橋口は打ち明ける。

 多面的な課題の解決に向けて、ユーフォリアはすでに取り組みの幅を広げているという。橋口の話はこう続く。

「スポーツには大きな価値があります。ただし、その価値を最大化していくには、逆説的ですが、スポーツの外側に意識を向けて、外側でもスポーツの価値を顕在化させていかなければなりません」

 後編ではサッカーの話を中心に、橋口たちが見据える未来へ、どう近づいていこうとしているか、詳しく紹介したい。(文中敬称略)

取材・文●手嶋真彦(スポーツライター)

※サッカーダイジェスト2023年1月12日号から転載

[後編]最新テクノロジー×地道な伝播活動で、アビューズも理不尽もないスポーツへ【日本サッカー・マイノリティリポート】
【関連記事】
最新テクノロジー×地道な伝播活動で、アビューズも理不尽もないスポーツへ【日本サッカー・マイノリティリポート】
温泉街をスポーツ合宿の聖地に。“掛け替えのない空間づくり”に邁進する男の物語【日本サッカー・マイノリティリポート】
Jクラブ初の知的障がい者サッカーチーム「横浜F・マリノスフトゥーロ」。みんなが共に生きていける優しい未来へ【日本サッカー・マイノリティリポート】
日本の首都のど真ん中で、子どもたちが豊かに成長できる「仕組み」【日本サッカー・マイノリティリポート】
「当時からプロフェッショナルだった」城彰二がオフのCM撮影時に驚いたカズの“凄さ”を明かす!「俺と岡野君は…」

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト いざアジア王者へ!
    5月10日発売
    悲願のACL初制覇へ
    横浜F・マリノス
    充実企画で
    強さの秘密を徹底解剖
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト ガンナーズを一大特集!
    5月2日発売
    プレミア制覇なるか!?
    進化の最終フェーズへ
    アーセナル
    最強化計画
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 高校サッカーダイジェストVo.40
    1月12日発売
    第102回全国高校選手権
    決戦速報号
    青森山田が4度目V
    全47試合を完全レポート
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ