厳しさと愉しさを体験させ、伸びようとする意欲を刺激したクラマー。
クラマーの功績を書き連ねれば枚挙に暇がない。だが実は常にその根幹を成したのは、すべては選手のために、つまりプレイヤーズ・ファーストの精神だったのではないかと思う。
選手たちの個性を見極め、彼らを伸ばすために究極の努力を惜しまない。その情熱は、杉山隆一や釜本邦茂、あるいはベッケンバウアーやルンメニゲにも等しく傾けられ、検見川で開催されたアジアで初めてのコーチングスクールの際は、救急車で運ばれても寝る間を惜しんで尽力した。
韓国代表のJリーガー第一号のノ・ジョンユンは言う。
「五輪代表でクラマーさんに指導を受け、初めてサッカーが楽しいということを知りました」
彼は大学に入るまで、フィジカルを中心とした苛烈な練習の日々を送って来た。だから高校時代のチームメイトは、競技の楽しさを知らぬまま全員が辞めてしまったという。一方クラマーは、一向に変わらない韓国の指導方法に嫌気がさして五輪代表監督を辞任する。
「私は朝から400メートルのタイムトライアルをやらせるために来たのではない」
育てるというのは、無理強いすることではない。厳しさと愉しさを体験させ、伸びようとする意欲を刺激することだと、クラマーは教えてくれた。琴線に響く接し方をするから、選手たちもそれに応えようと力を振り絞る。
そして少しでもその真髄を共有する指導者が増えれば、日本サッカーも活気づいていくはずである。
クラマーは東京五輪を終え、帰国する際に日本サッカーを改善するための5つの提言を残した。一方フィリップ・トルシエは、来日早々から問題点をストレートに指摘し続けた。個人的には、歯に衣着せぬトルシエのやり方も嫌いではない。しかし両者を比べれば、この国でクラマーがいつまでも愛される理由がよく判る。
文:加部 究(スポーツライター)
選手たちの個性を見極め、彼らを伸ばすために究極の努力を惜しまない。その情熱は、杉山隆一や釜本邦茂、あるいはベッケンバウアーやルンメニゲにも等しく傾けられ、検見川で開催されたアジアで初めてのコーチングスクールの際は、救急車で運ばれても寝る間を惜しんで尽力した。
韓国代表のJリーガー第一号のノ・ジョンユンは言う。
「五輪代表でクラマーさんに指導を受け、初めてサッカーが楽しいということを知りました」
彼は大学に入るまで、フィジカルを中心とした苛烈な練習の日々を送って来た。だから高校時代のチームメイトは、競技の楽しさを知らぬまま全員が辞めてしまったという。一方クラマーは、一向に変わらない韓国の指導方法に嫌気がさして五輪代表監督を辞任する。
「私は朝から400メートルのタイムトライアルをやらせるために来たのではない」
育てるというのは、無理強いすることではない。厳しさと愉しさを体験させ、伸びようとする意欲を刺激することだと、クラマーは教えてくれた。琴線に響く接し方をするから、選手たちもそれに応えようと力を振り絞る。
そして少しでもその真髄を共有する指導者が増えれば、日本サッカーも活気づいていくはずである。
クラマーは東京五輪を終え、帰国する際に日本サッカーを改善するための5つの提言を残した。一方フィリップ・トルシエは、来日早々から問題点をストレートに指摘し続けた。個人的には、歯に衣着せぬトルシエのやり方も嫌いではない。しかし両者を比べれば、この国でクラマーがいつまでも愛される理由がよく判る。
文:加部 究(スポーツライター)