【コラム】デットマール・クラマーが日本サッカーに残したものとは――

カテゴリ:Jリーグ

加部 究

2015年09月21日

プロとしての振舞いを厳しく要求する反面、心憎い気配りも。

日本代表で指揮を執ったのちは、バイエルンの指揮官として欧州制覇も実現。しかし、日本のメキシコ五輪銅メダルには、それ以上の感動を覚えたと語っている。(C) Getty Images

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 岡野は当時の日本サッカー界を「指導術は存在しても、指導論はなかった」と振り返る。つまりいかにチームを勝たせるかという我流の方法論はあっても、クラマーのようにどうしたら上手くなるのか、実践と理論を携えて適切に導ける人材は見当たらなかった。
 
 クラマーは大半が20歳を越えた代表選手たちに基礎から教え込んだ。インサイド、インステップ、ヘディングから、「パスをしたら動く」「受ける前に見る」「ショートパス2本の次は逆サイドを見る」など…、それらは俊敏で知的な日本選手たちの特性を活かすためには不可欠な、永遠の真理だった。
 
 ただしクラマーは、後に日本のメディアが足並みを揃えた「徹底して基礎を叩き込んだ」という記述には不服を示していた。
「私が教えたのは基礎だけではない。それは大きな間違いだ」
 
 もちろんクラマーが基礎編しか持ち合わせない指導者でなかったことは、後の功績からも明白だ。簡単に言えば、クラマーが来るまで日本にはリフティングという概念もなかったのだ。基礎工事に時間を費やすのは必然で、五輪本番が近づけば対戦相手のスカウティングから戦力を最大限に活かすための方法まで、しっかりと応用編のページもめくっている。
 
 またクラマーが伝えたのは、ピッチ上の技術や戦術に止まらなかった。身分はアマチュアでも、プロフェッショナルとしての振舞いを厳しく要求し、反面心憎い気配りも見せた。ある時、日本代表が不本意なパフォーマンスを見せると、ドアを閉め容赦なく告げた。
「今後一切このチームで片山(洋)の姿を見ることはない!」
 
 ところがしばらくすると、調子を取り戻した片山を再び代表に招集する。そして肩を抱えて二コリと笑ってみせるのだ。
「本当の友だちというものは、いつだって見守っているものだ」
 
 足を故障した鈴木良三が休んでいると、自らバンテージを巻きながら話した。
「ホラ、こうすれば、もう片方の足は鍛えられるじゃないか」
 
 厳父は寛容さを併せ持ち、だからこそ選手たちも「クラさんのために」と最後の一滴まで汗を流した。1968年メキシコ五輪の3位決定戦を終え、精根尽き果てて眠りにつく選手たちを見て、クラマー自身も欧州制覇を凌駕する感動を覚えるのだ。
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