いずれにしても、育成面の整備は日本サッカーの成長・発展において不可欠です。気になるのは高体連（全国高等学校体育連盟）でリーグ戦文化が浸透していない点。ヨーロッパでは子どもの頃からそういう文化に慣れていますからフィジカル的にタフな選手が育ちやすいが、日本ではそうはいきません。例えば高校サッカー出身でＪリーグを経由せずに渡欧した宮市亮選手が度重なる故障に苦しんだのは、リーグ戦への免疫が足りなかったからではないでしょうか。

　では、Jリーグのアカデミー育ちがいきなりプロで通用するかと言えば決してそうではありません。むしろ、出番がなく挫折を味わうケースのほうが多いです。伸び盛りの時期──18歳から20歳ぐらいの２、３年間は重要で、ここでより多くの実戦経験を積めるかは極めて大事。堂安律選手や久保建英選手がプロになってJリーグですくすく成長できたのは、前者はガンバ大阪U－23、後者はFC東京Ｕ－23の一員としてJ３リーグでプレーできた側面もあるはずです。もしJ３リーグがなかったら、食野亮太郎選手もＧ大阪でブレイクできなかったかもしれません。

　やはり環境は重要で、だから今季はエリートリーグ（編集部・注／21歳以下の選手の試合出場とアカデミー所属選手の飛び級の機会を創出するとともに、トップチームとアカデミー、そして地域との連携を深める機会を提供することを目的としたリーグ）を試験的にスタートさせました。こういう場を増やしていければ、ひいてはJリーグの活性化につながります。
 

　Jリーグのステータスに話を戻せば、外国籍選手がひとつ鍵になります。チャナティップ選手が札幌に加入してくれたおかげで、彼の母国タイではJリーグの認知度がリーグ・アン（フランス・リーグ）を上回っていますからね。そういうスター選手をＪリーグに引っ張ってくるのはやはり大事です。印象を良くするにはアジアの大会、アジアカップやACLで日本の強さをアピールするしかありません。そこでコンスタントに勝てれば、Jリーグの価値は間違いなく高まります。

　日本人、外国人に関係なく、優秀な人材がＪリーグに集まって、ここで育ってくれれば理想的です。「人を育てるリーグ」という価値観を世界に発信していく。それが今、Ｊリーグに課せられた使命ではないでしょうか。

＜プロフィール＞
原　博実（はら・ひろみ）／1958年10月19日生まれ、栃木県出身。現役時代はＦＷで早稲田大、三菱重工などで活躍。日本代表歴は75試合・37得点。現役引退後、浦和、ＦＣ東京の監督を経て日本サッカー協会で技術委員長なども務めた。16年３月にＪリーグの副理事長に就任し、現在に至る。

取材・構成●白鳥和洋（サッカーダイジェスト編集長）

※本稿は、サッカーダイジェスト８月26日号に掲載された「J’sリーダー理論」の内容を加筆したもの。

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