【連載】識者同士のプレミア放談「ジェラードが遺したもの――」

カテゴリ:ワールド

田邊雅之

2015年05月15日

イングランド流「フットボーラー」の最後の世代。

3点差を追いつき、PK戦でミランを下してCL優勝を果たしたものの、肝心のプレミアの覇権には一度も手が届かず。心残りだろう。 (C) Getty Images

画像を見る

田邊:あれだけの選手なのに、結局、プレミアのタイトルには届きませんでしたね。
 
山中:国内ではウリエ時代の2000-01シーズンにFAカップとリーグカップを取ったのと、05-06シーズンにもう一度FAカップを制したぐらい。
 
田邊:00-01シーズンというのは、コミュニティシールドとUEFAカップ、UEFAスーパーカップでも勝って、5冠王者とか言っていた頃。ところがそこから意外に伸び悩んだ。
 
山中:そう。イングランド人の感覚からすれば、まさかリーグ優勝を1回も経験しないまま、プレミアを後にするとは思っていなかったでしょう。昨シーズンを別にすれば、タイトルを争ったような展開自体が少なかった。
 
『テレグラフ』のヘンリー(ウィンター記者)に原稿を依頼した時も、「(ジェラードが)プレミア無冠で終わるなんて考えたことすらなかった」と言っていました。自伝を代筆した仲でもあるし、「考えたくなかった」というのが本音なんでしょうけど。
 
田邊:あとはベニテス時代の08-09シーズンに、マンチェスター・ユナイテッドと争ったケースくらいかな。
 
山中:ベニテスがファーガソンにマインドゲームを仕掛けたんですよね?
 
田邊:そう。いわゆる「ラファの“口撃”」。でもあの時も、最終的にはリバプール側がプレッシャーに押しつぶされてしまった苦い経験がある。
 
山中:04-05シーズン、劇的なCL優勝を飾ったという巨大な「絆創膏」はあるにしても、プレミアで勝てなかった心の傷は覆いきれないんでしょうね。
 
田邊:と思います。この辺の感覚は日本人には掴みにくいと思うんだけど、CLというのは基本的に外国での戦いなわけで。いかにビッグなタイトルであっても、やはり地元(国内)では、俺たちがナンバーワンなんだと言いたいんですよ。
 
山中:ましてやジェラードは、リバプールに対する思い入れが強い。彼の少年時代は、それこそリバプールがイングランドサッカーの顔役だった時代ですから。
 
田邊:そういうクラブのイメージも含めてなんですが、ジェラードはプレースタイル的にも、イングランド流「フットボーラー」の最後の世代だというイメージが強い。山中さんの印象は?
 
山中:僕もそう思いますね。まずプレースタイルで言うと、この国の人間が大好きなボックス・トゥ・ボックス型MFの極みだし、ミドルシュートなんかも凄まじいじゃないですか。
 
 さっき話題に出た05-06シーズンのFAカップ決勝なんかは「ジェラード・ファイナル」(ジェラードのための決勝戦)と言われたぐらいで。映画の「少林サッカー」に出てくるような、嘘みたいに強烈なミドルをウェストハム相手に炸裂させていた。
 
田邊:芝生や選手、審判やゴールポストまで宙に巻き上げながら飛んでいくキャノンシュート(笑)。あの試合は、忘れようにも忘れられないですよ。こっちはジェラードにしてやられた側ですから(苦笑)。
 
山中:真面目な話、かつてのプレミアでは豪快なミドルが見所のひとつだったんだけど、ああいうシュートを打てる選手自体が減ってきていますね。
 
田邊:いまの選手でいうとジョンジュ・シェルビー(スウォンジー)くらい。
 
山中:でもシェルビーの場合は、ミドルといってもボレーしかできない。
 
田邊:一時期リバプールにいたけど、ジェラードの後継者にはなれなかったし、イングランド代表でもブレイクしなかった。現在のリバプールだとヘンダーソンが後釜候補になるんでしょうけど、ジェラードが抜けた穴を埋めるのはきつい。その点では、先週、話題に出たチェルシーのテリー問題に近いものがある。
 
山中:テリーの場合は、ピッチ上でも欠かせない存在になっているから、モウリーニョはブレンダン・ロジャース以上に難題を抱えているとも言えますね。
 
 でも後継者探しという点では、イングランド代表も相当に大変。例えばチーム全体を精神的に引っ張っていくという点では、ベッカムがキャプテンになった頃から、ジェラードの方が適任だという声が強かったぐらいで。
【関連記事】
【インタビュー】スティーブン・ジェラード 「決断の理由」
ジェラードがリバプールにもたらした栄光の数々を振り返ろう
偉大なキャプテン、ジェラードに相応しい最高の幕引きは―― 【リバプール番記者】
ジェラード退団に見る「生涯1クラブ」を貫き通すことの難しさ
【連載】識者同士のプレミア放談「チェルシーはなぜ、プレミアの覇権を奪回できたのか」
【連載】識者同士のプレミア放談「武藤にビックリ、リバプールはがっかり」

サッカーダイジェストTV

詳細を見る

 動画をもっと見る

Facebookでコメント

サッカーダイジェストの最新号

  • 週刊サッカーダイジェスト 王国の誇りを胸に
    4月10日発売
    サッカー王国復活へ
    清水エスパルス
    3年ぶりのJ1で異彩を放つ
    オレンジ戦士たちの真髄
    詳細はこちら

  • ワールドサッカーダイジェスト 特別企画
    5月1日発売
    プレミアリーグ
    スター★100人物語
    絆、ルーツ、感動秘話など
    百人百通りのドラマがここに!
    詳細はこちら

  • 高校サッカーダイジェスト 完全保存版
    1月17日発売
    第103回全国高校サッカー選手権
    決戦速報号
    前橋育英が7年ぶりの戴冠
    全47試合&活躍選手を詳報!
    詳細はこちら

>>広告掲載のお問合せ

ページトップへ