「ずっと憧れていた舞台。しかも日本でも名のあるヴェルディに入れるとは思ってもいなかったので。契約できた時は、素直に嬉しかった。“ここからだ”という気持ちでした」

　しかし、プロのキャリアはわずか半年で終わりを告げる。ピッチに立てたのは１試合だけ。シーズン終了後、東京Vを退団した。

「でも、ここで踏ん切りがつきました。僕はこの世界で生きていくための実力、メンタリティはなかったのかな、と。自分の中でやっと消化できた感じでした。もちろん、全力でやった結果ではあります」

　憧れていたプロの景色を見ることはできた。もう後悔はない。悔しさがないと言えば嘘になるが、次の人生を豊かにしようと、気持ちを切り替えた。

　セカンドキャリアで何をやるかに迷いはなかった。サッカーと同じぐらい、モデルという職業が好きだった。これしか考えられなかった。

　善は急げ。これといった伝手はない。通常の手順を踏むのももどかしかった。とりあえず行動に出る。

「モデル事務所にアポなしで行きました。いてもたってもいられなかったので。自信はあったし、だから“まず実物を見てくれ”って（笑）。その前のめりな感じは、サッカーで学んだ部分かもしれませんね」

　門前払いになりそうだったが、たまたま居合わせた社長に気に入ってもらえて、その事務所に在籍することができた。

　モデル業は順調にスタートした。最初の月から有名アパレルブランドの広告やCMに抜擢された。ただ、ひとつ問題があった。ほんの数か月前まではJリーガーだった。端的に言えば、モデルとしては体格が“ゴツかった”のだ。

「85キロあったので、まず75キロまで落とさないといけなかった。先の仕事も決まっていたし、ダイエットでそんなに時間を取れない。『１か月で10キロ落とせ』と言われて（笑）」

　その頃はダイエットの正しい知識はなかったから、自己流で体重を落とした。

「とにかく必死だったので。トレーニングして、ほぼ何も食べませんでした。口にするのは、朝と夜にプロテインだけ」

　急激な減量で身体が悲鳴を上げる。「ナゾの熱が出たりとか（笑）」。病院のお世話になることもあり、医師から警告を受けた。だが「大丈夫です」と聞く耳を持たず、「人間がギリギリで正常さを保てるビタミン剤とかがあれば教えてください」と頼み込んだ。

「サッカーで良いところまでいけなかったし、ここで掴んだチャンスを無駄にしたくなかった」

　現役時代は、自らのメンタルの弱さを痛感していた。もう二度と、挫けるようなことはしたくなかった。ここでやらないで、いつやるんだ。今思えば、そのやり方は決してほめられたものではなかったかもしれないが、自分自身を叱咤して、見事に１か月で10キロ落としてみせた。