【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の六 「臨機応変」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年02月21日

教科書にはない臨機応変さが求められる。

バルセロナのような戦い方は“特異”。同じように戦っているチームは世界にほとんど存在しない。(C)Getty Images

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 ボールの“さわり”は良いし、パスをつなげる選手は多くなったが、その場に応じた打開はできない。強い守備に遭遇すると、慌てる選手が多くなった。選手の戦闘力がガクリと落ちてしまっているのだ。
 
 日本サッカー全体でポゼッションを唱えるのは適当ではない。
 
 理路としては、ポゼッションは申し分ないだろう。見栄えも耳障りも良い。しかし育成の指導者がボールプレーだけに固執した場合は、プロに入って苦労するのは選手のほうだろう。遠からず、状況に応じたプレーが求められることを思い知らされるからだ。
 
 言うまでもないが、選手がボールスキルを磨くのは悪いことではない。
 
「ボールを支配していれば失点しない」というのはサッカーの定石で、攻撃こそ最大の防御と言える。しかし90分間、自分たちがボールを持てるわけではない。相手ボールを取り返さなければならず、相手の攻撃を跳ね返す仕事がある。
 
 とりわけ守備の選手は受け身にならざるを得ず、相手との駆け引きや間合いの取り方を身につける必要があるだろう。
 
 そもそもバルサのような戦いは「特異」と考えるべきだ。事実、同じように戦っているチームは世界にほとんど存在しない。彼らの場合、スカウティングによって世界中から集められた選手が切磋琢磨し、その年月のなかでスタイルが単一クラブの方針として育まれてきたのだ。
 
 どんな状況でも対応できる選手、チーム戦術こそが日本全体では求められる。
 
 例えばJ2でプレーオフ出場権を争ったファジアーノ岡山は戦力的には非力だったが、よく鍛えられ、覇気を感じさせるチームだった。相手や状況に応じて、ポゼッションとカウンターを使い分け、最大限のプレーを出せていた。
 
 システムは3-4-3とも、5-4-1とも言えたが、中央部が堅牢。戦術的には魚鱗の陣形で、鱗をはがされても身を切らせずに辛抱強く守り、致命傷を回避するや鋭いカウンターに転じた。攻守の切り替えが早く、“負けにくいチーム”だった。
 
 特に走力は武器で、ボールに対する反応、出足の鋭さ、裏に抜ける速さ、競り合いながらのランニングなど、どれも称賛に値した。
 
 己を深く知り、敵を正しく推し量り、駆け引きの中で持ち味を出す。教科書にはない臨機応変さ。それがサッカーの戦術能力なのである。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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