【連載】小宮良之の『日本サッカー兵法書』 其の五 「代表監督交渉の舞台裏」

カテゴリ:特集

小宮良之

2015年02月12日

日本代表監督就任は、欧州からの“退場”を意味する。

一部報道では、プランデッリとの交渉が決裂したとされる。欧州からの“退場”をも意味する日本代表監督就任は、多くの指揮官にとってリスクを孕む。(C)Getty Images

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 しかし、日本代表となると有力監督の多くは決断を渋る。イタリア代表を率いていたチェーザレ・プランデッリは年俸約4億5000万円で、日本からのオファーを断ったと報道された。これが事実ならば、自然な流れだったとも言える。そもそも、欧州で活躍する指揮官は“お金を積まれても”極東での指揮を敬遠する。
 
 なぜなら日本代表監督を引き受けることは、欧州のマーケットからの“退場”を意味しているからだ。
 
 単刀直入に言って、極東での実績は欧州で認められていない。事実、日本を日韓ワールドカップでベスト16に導いたフィリップ・トルシエは欧州復帰に苦労し、結局は大きな成果を上げられなかった。60才以下の野心ある監督は、「より良いオファーを待つ」と日本からの誘いに積極的興味を持たない。
 
 前回の日本代表監督交渉でも、マヌエル・ペレグリーニ(現マンチェスター・C監督)、エルネスト・バルベルデ(現アスレティック・ビルバオ監督)は有力候補だったが、「欧州の最前線での指揮を」という意志が強く、交渉は実らなかった。
 
 世界において、日本人が考えるよりも日本代表監督ブランドの価値は乏しい。
 
 それはたとえば、ワールドカップで日本代表監督を二度も務めた岡田武史氏がタイ代表監督就任の話を日本代表監督時代と同じ年俸で受けるか、ということを想像すれば話が早い。岡田氏がタイと密接なつながりがあり、“かの国でなにかを成し遂げたい”というエクストラなモチベーションがない限り、考えられないだろう。逆説すれば、日本サッカー協会はそういう“奇特な人材”を探り当てなければならないわけである。
 
 前回、ザッケローニを探し当てた時は、交渉内容をクローズにすることで戦い抜けた。だが今回は、その対象や内容までリークされている節があり、交渉におけるマイナスは計り知れない(ドラガン・ストイコビッチのように観測的で日和った候補報道も多いが)。
 
 複数人に同時に声をかけるなか、相手に内情が筒抜けの状況。アギーレ解任問題による余波なのか、情報はだだ漏れに近く、これでは交渉は後手に回ってしまう。
 
 ともあれ、代表監督交渉はひとつのドラマになるだろう。
 
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。01年にバルセロナへ渡りライターに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写。近著に『おれは最後に笑う』(東邦出版)。
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