劇的な川崎のルヴァン初制覇の舞台裏ストーリー。キーマン4人が抱えた秘めたる想い

カテゴリ:Jリーグ

本田健介(サッカーダイジェスト)

2020年04月27日

エースは圧巻の2ゴール

雄叫びをあげる小林。途中出場ながら2ゴールを奪った。(C)SOCCER DIGEST

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 盟友、新井の活躍を誰よりも喜んだエースの小林悠も、戴冠に大きく貢献した。

 男の脳裏には2年前の光景がこびりついていた。2017年、リーグ戦では好調をキープし、川崎有利と目されて臨んだC大阪とのルヴァンカップ決勝。しかし、試合開始直後に失点を喫すると、1トップで先発した小林も最後まで本来の力を示せずに0-2で敗れた。かつて川崎でコンビを組み、この試合ではC大阪に先制点をもたらした杉本健勇らが歓喜する姿を、ただ呆然と見守るしかなかった。

 あれからチームはリーグ連覇を達成し、頂点に立つ喜びを覚えた。それでもカップ戦の優勝経験はなし。愛するクラブを頂点に導きたいという想いは誰よりも強かった。

 しかし、大一番を前にしてアクシデントに見舞われる。練習試合で右足首を痛めてしまったのだ。「どうしてこんな時に…」ショックは隠しきれなかった。

 それでもエース、そしてキャプテンとしての意地がある。翌日から練習に参加しながら足首の回復を目指し、出席した前日会見では「練習自体は出られているのでまったく問題ありません」と怪我の影響をキッパリ否定。

 ただし、札幌との一戦に向けたスターティングメンバーに名前は記されず、ベンチからのスタート。「そりゃ悔しかったです。やっぱりスタートからいきたかった」と本心を語るも、「右足首のことがなくとも(レギュラーを争うレアンドロ・)ダミアンが先発かなだと思った」と自らの出番を冷静に待った。
 ピッチに立てば、ゴールを決められる自信はある。73分、名前が呼ばれると「ヒーローになることしか考えていなかった」。「自分が点をとるから大丈夫」と周囲に語りかけていたという。

 そして1-1で迎えた88分にそれは実際のものとなる。得意とする相手最終ラインとの駆け引きから、「完璧だった」という大島僚太からの浮き球のパスを受けると、相手GKとの1対1を制したのだ。スタジアムのボールテージが一気に増した瞬間、スタンドに向けて大きく咆哮する小林の姿があった。

 それはまさにストライカーとしての意地を誇示するかの如く、猛々しく、ここまでの鬱憤を開放するかのような叫び声だった。

 そして小林は延長戦にもつれたゲームで再びチームを救うことになる。試合は後半終了直前に札幌に2-2の同点に追い付かれ、延長戦に入ると、96分にはCBの谷口彰悟がVAR判定で退場を命じられ、そのプレーで喫したFKを決められる。10人で1点のビハインド。

 この時点で札幌の勝利を予想した人は多かったのではないか。それでも109分、中村憲剛の蹴ったCKをファーで山村和也が折り返すと、オフサイドラインギリギリで待っていたのが小林だった。チームを窮地から助け出す値千金の同点弾。

 そしてPK戦の末に――、セレモニーを終えたピッチには新井と勝利の美酒の味を噛みしめる小林の姿があった。
 
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