苦境の名将に救いの手を差し伸べたのは…
「間違わない」
それは、何か革命的なことをやってのけるよりも、指揮官として最も大事な能力である。それは、一般的なリーダー論にも通じるかもしれない。
「ルイスは厳しい監督だが、選手を平等に扱う。何より、それぞれのプレーをいちいちよく見ている。だから、みんな彼の指示には従う」
それは、何か革命的なことをやってのけるよりも、指揮官として最も大事な能力である。それは、一般的なリーダー論にも通じるかもしれない。
「ルイスは厳しい監督だが、選手を平等に扱う。何より、それぞれのプレーをいちいちよく見ている。だから、みんな彼の指示には従う」
2008年にスペイン代表を欧州王者に導いたルイス・アラゴネス監督について、カルレス・プジョールがこのように話したことがあった。
2014年に75歳で亡くなったアラゴネスは、その言動で物議を醸したこともある。黒人選手に対し、不適切な表現があった。彼自身は愛着を持って使った言葉だったが、時代の変化もあって、激しく糾弾された。
その時に立ち上がったのは、彼の指導を受けた多くの黒人選手たちだった。「ルイスは差別主義者ではない」と断言。これによって、火の手は収まっていった。
「ルイスは厳しい表現をするが、全て正しく、私の心に染みいった。彼のアドバイスのおかげで、私は成長できた」
差別問題には誰よりも敏感だったサミュエル・エトーが、感謝の気持ちを口にしたのだ。
人の心を掌握できるか。
リーダーの資質は、結局はここに尽きる。
文:小宮 良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。