「気付きました。あ、わたし大したことないんだなって」
仮病でラージョの練習をサボった後藤は、それから3日間、マンションの一室に閉じこもる。
「事故に遭わないかな」
そこまで思い詰めていた。チーム内では孤立しており、誰からも認めてもらえない。スペインに来るまでの“できていた自分”とのギャップに苦しみながら、しかし日本におめおめと帰るわけにもいかなかった。
3日間、何も食べなかった。私なんか、このまま衰弱すればいい。言い訳ばかりを考えていた。プライドを保ったまま、カッコよく日本に帰国するには、どうすればいいのか。
4日目の昼、ついに外に出た。
「お腹がグーグー空いてきて。結局、食欲が勝っちゃったんですよ(笑)」
さて、何が起きたか――。何も起こらなかったのだ。
「世の中、何も変わっていなかったんです。当たり前ですけどね」
表に出ると、いつも通りの明るいスペインの空があり、いつも通り騒がしいオバチャンたちがぺちゃくちゃ喋っていた。何も変わらない。
毎日通っていたバルに入ると、いつものパンとコーヒーが出てきた。
「3日も姿を見せていないのに、普通にハーイって。いや、ちょっとは心配してよって(笑)」
後藤はハッとした。
「これってチームも一緒だと。招集外の選手が3日サボって、誰が困るかって話です。監督も風邪が治ったら戻ってこいくらいの反応で。気付きました。あ、わたし大したことないんだなって」
理想の自分を勝手に、どんどん膨らませ続けていたのだ。周りからそう求められているのだろうと。
「誰も何も言ってないのにね」
―――◆―――◆―――
メンタルトレーナーの後藤が、トレーニングで育てようとしているもの。それが自己肯定感だ。他人と比較してのOKではない。ありのままの自分を受け入れる。
「できない自分、負けている自分も今の自分だと受け入れている状態です。この土台がないと、できないのは偶然とか、負けたのは誰々のせいとか、事実を直視しなくなってしまいます」
昔の後藤がそうだった。小学5年生の時には学習塾で上のクラスに入れず、宿題をやらなくなった。
「そうしておけば、テストができなかった時の言い訳にできるんです」
サッカーの三重県選抜には、自分よりも上手い子がごろごろしていた。
「雰囲気、目茶苦茶悪いもん」
理由をつけて行かなくなった。どんな自分でも大丈夫という自己肯定感は持てずにいた。“できない自分”を避けるようになっていただけだ。
「目標の達成には、事実を受け入れなきゃいけない時があります」
スペインで24歳になっていた後藤は、4日ぶりにラージョの練習に参加する。虚勢を張るのはやめて、できることから始めるつもりだった。
「その日の目標は、チームメイトに話し掛ける、でした。OKラインを一気に下げましたよね(笑)」
サッカーでも、できることに集中するようにした。相手に最後まで食らいつく。走る。このふたつだった。
「そんな守備ができて、息が切れるまで走れたら、自分にOKを出そう」
「事故に遭わないかな」
そこまで思い詰めていた。チーム内では孤立しており、誰からも認めてもらえない。スペインに来るまでの“できていた自分”とのギャップに苦しみながら、しかし日本におめおめと帰るわけにもいかなかった。
3日間、何も食べなかった。私なんか、このまま衰弱すればいい。言い訳ばかりを考えていた。プライドを保ったまま、カッコよく日本に帰国するには、どうすればいいのか。
4日目の昼、ついに外に出た。
「お腹がグーグー空いてきて。結局、食欲が勝っちゃったんですよ(笑)」
さて、何が起きたか――。何も起こらなかったのだ。
「世の中、何も変わっていなかったんです。当たり前ですけどね」
表に出ると、いつも通りの明るいスペインの空があり、いつも通り騒がしいオバチャンたちがぺちゃくちゃ喋っていた。何も変わらない。
毎日通っていたバルに入ると、いつものパンとコーヒーが出てきた。
「3日も姿を見せていないのに、普通にハーイって。いや、ちょっとは心配してよって(笑)」
後藤はハッとした。
「これってチームも一緒だと。招集外の選手が3日サボって、誰が困るかって話です。監督も風邪が治ったら戻ってこいくらいの反応で。気付きました。あ、わたし大したことないんだなって」
理想の自分を勝手に、どんどん膨らませ続けていたのだ。周りからそう求められているのだろうと。
「誰も何も言ってないのにね」
―――◆―――◆―――
メンタルトレーナーの後藤が、トレーニングで育てようとしているもの。それが自己肯定感だ。他人と比較してのOKではない。ありのままの自分を受け入れる。
「できない自分、負けている自分も今の自分だと受け入れている状態です。この土台がないと、できないのは偶然とか、負けたのは誰々のせいとか、事実を直視しなくなってしまいます」
昔の後藤がそうだった。小学5年生の時には学習塾で上のクラスに入れず、宿題をやらなくなった。
「そうしておけば、テストができなかった時の言い訳にできるんです」
サッカーの三重県選抜には、自分よりも上手い子がごろごろしていた。
「雰囲気、目茶苦茶悪いもん」
理由をつけて行かなくなった。どんな自分でも大丈夫という自己肯定感は持てずにいた。“できない自分”を避けるようになっていただけだ。
「目標の達成には、事実を受け入れなきゃいけない時があります」
スペインで24歳になっていた後藤は、4日ぶりにラージョの練習に参加する。虚勢を張るのはやめて、できることから始めるつもりだった。
「その日の目標は、チームメイトに話し掛ける、でした。OKラインを一気に下げましたよね(笑)」
サッカーでも、できることに集中するようにした。相手に最後まで食らいつく。走る。このふたつだった。
「そんな守備ができて、息が切れるまで走れたら、自分にOKを出そう」